成毛さんの
「資産運用3原則」
「人口に膾炙したこの経営者の資産運用術の一端でも明らかになれば、多くの読者が大きな関心を寄せるはず」――筆者の下心を、おそらく成毛さんは見透かしていたはずです。なのに、嫌な顔一つ見せず、下世話な質問にも答えてくれました。そして、資産運用の鉄則として、
(1) キャピタルゲイン(値上がり益)は追わない。
(2) 運用の対象は2つに絞り込む。
(3) 情報が確定してから動いても遅くない。
以上の3点を指摘し、おおむね以下のように話しました。
「キャピタルゲインよりは利回り(元金に対する配当の割合)を追求したい。だから、個別株の投資はいっさいやっていないんですよ。今まで持った株といえば、マイクロソフトだけ。基本的に僕は、キャピタルゲインはそんなに儲からないと思っていますから」
「今はユーロのヘッジファンドと不動産以外は運用してません。運用対象が二件を超えると、管理できませんから。だから残りは全部、キャッシュで持ってます」
「僕が求めるのは公知の事実だけ。早過ぎる情報は確定していないから必要ない。プロのディーラーなどと違って、個人の投資には事後的なものが役立つんです。一刻を争う情報が必要な投資はプロに太刀打ちできません」……。
とはいえ、当時成毛さんが手がけていたのは、たとえばとてつもなく安い短期(変動)金利と長期(固定)金利に個人的にスワップをかけ、将来長期金利が上がるほうに賭けて超高級マンションを10億円で1棟買いする、といった類いのものでした。すなわち、一般読者が参考にできるような投資や運用ではなかったのです。案の定、読者の反応は鈍く、雑誌の売れ行きもはかばかしくありませんでした。せっかくインタビューに応じていただいた成毛さんには申し訳なかったのですが、責任はひとえに筆者、そして編集部の企画の詰めの甘さにあったことは否定できません。
ひるがえって、2009年に刊行された『大人げない大人になれ!』は、あくまでも読者目線で、一冊丸ごと「大人げなさ」について考察したものです。これからの時代は、自らが変化を作り出すことが求められる。そのために必要なのは飛びぬけた創造性で、そのカギを握っているのは「我慢」や「努力」ではなく、子どもが持っているような「大人げなさ」そのものなのである……といった主張は多くの読者の共感を呼びました。
どういうわけか日本では、我慢を美徳として考える傾向がある。そして、強い自制心を持つことが大人の証明になるとされる。しかし、私の周囲の成功者とされる人に、我慢強い人物は見当たらない。逆に、やりたいことがまったく我慢できない、子どものような人ばかりだ。そういう人は、好きでやっているのだから、時間を忘れていくらでもがんばるし、新しいアイデアも出てくる。我慢をして嫌々ながらやっている人が、こういう人達に勝てるはずがないではないか。(16ページ)