10兆円もの天文学的数字に達した介護保険料。右肩上がりの裏には、介護事業者による過剰サービスはもちろん、福祉施設に高齢者を“売る”ブローカーまで暗躍する膨大な無駄がある。
「相場は10万円から、いいところで20万円。大体、1人15万円が平均ですわ」
こう語るのは、関西で介護事業に携わる男性だ。取引しているもの、それは人間、しかも高齢者だ。
「実態は人身売買と変わらない」と、この男性は過去に自らも取引に関わったと明かす。
“商品”は、病院に入院している要介護の高齢者たち。彼らをサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や住宅型有料老人ホームといった高齢者施設に“売る”のだ。
事情に詳しい別の大阪の介護業界関係者によれば、その基本的なスキームは次の通りだ。
昨今、高齢者施設業界には新規参入者が相次ぎ競争が激化、入居者集めに苦労する所が増えている。そうした施設が頼るのが、元ケアマネジャーや不動産業者といった「ブローカー」たちだ。
依頼を受けたブローカーは、退院が決まった高齢者やその家族に、懇意にする民間病院の看護部長や事務長、医療ソーシャルワーカーなどの口を借りて「良い施設を知っていますよ。紹介しましょうか?」と近づく。「無償の善意」を前面に押し出し、依頼主である施設に高齢者を紹介するのだ。
無論、その背後にはカネが流れている。
図3-1を参照してほしい。高齢者施設からブローカーに渡る入居者1人当たりの成功報酬は10万~20万円。そのうち、数万円がブローカーから病院スタッフのポケットに流れるという。
一方、施設側は、入居者に「一定期間の退去を認めない」といった縛りをかけ、ブローカーに掛かった費用を回収するのが一般的だ。
だが、退院後の行き先が決まらず焦る本人ばかりか、自宅での介護に不安を覚える家族にとっても、まさに渡りに船の話。「お世話になった看護師さんが勧めるのだからきちんとした施設のはず」と喜んで入居を決めることが多いという。