経済学では、企業が活動する市場を、「完全競争・独占的競争・独占」の3種類に分類して説明する。企業の数で定義するならば、「無数・少数・1社」になる。
幹線道路では、数百メートルおきに、ガソリンスタンドが林立する。その店舗の数たるや、「無数」であろう。しかも、店頭に表示される価格は毎週のように上下動を繰り返すので、筆者は長い間、ガソリンスタンドを「完全競争市場」だと思い込んでいた。
ところが、『クルーグマン・ミクロ経済学』473ページによれば、ガソリンスタンドは「完全競争市場」ではなく、「独占的競争市場」に属するのだという。「立地」が、独占的競争市場としての差別化条件になるそうだ。
クリーニング店や美容室も、立地による差別化を図っている点で、独占的競争市場である、とクルーグマン教授は説明している。
駅前の立地にこだわる企業もあれば、郊外にショッピングセンターを展開する企業もある。駅の公衆トイレの横に、理容室を展開する企業もある。これらはいずれも独占的競争を展開しているということだ。
独占的競争企業の共通項
こうした「立地」に必然的に結びつくのは、「不動産」だ。
管理会計や経営分析に関する書籍を参照すると「製造業は固定費型」「流通業は変動費型」と分類しているものがある。彼らが好んで用いるCVP分析(損益分岐点分析・限界利益分析)から導かれる分類なのであろう。
しかし、そうした分類は、実務を知らない者が語る「机上の空論だ」というのが、筆者の立場である。
郊外のショッピングセンターを訪れて、広大な駐車場に降り立ち、巨大な店舗を見上げたとき、眼前に広がるのはどう見ても「固定費のかたまり」である。流通業を変動費型と分類するのは、実務を知らないにもほどがある。
実務家の観点から述べるならば、イオンやセブン&アイは食料品や日用品を扱う不動産業、セブン-イレブンは便利さを扱う不動産業、トヨタ自動車は完成車を扱う不動産業、東芝は電気機器を扱う不動産業、KDDIやソフトバンクは電波を扱う不動産業なのである。
これらの企業は、不動産の上に独自のビジネスモデルを構築し、独占的競争市場で活動している企業(独占的競争企業)という共通項を有している。