カントも実践していた散歩での思索
脳科学者も「創造性を高める」と指摘

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 今日は、そんなダークサイドの話題というよりは、ブライトサイドの話を提供したい。

 筆者が米国の大学院に留学中のことだ。指導教員のもとに研究の相談にいくと、決まって「ちょっとお茶でもしながら話そう」と散歩に連れていかれた。その先生は、筆者の話を聞きながら、近くではなく、歩いて10分くらいかかるカフェに行き、そこで小1時間ほどディスカッションをするのが常だった。

 筆者の留学先はロサンゼルスだったため、大抵はさわやかな風の中、眩しい太陽の下で、のんびりと歩きながら、彼は筆者の話を熱心に聞いてくれ、カフェに座りお茶が運ばれてくるころには、何かしら有効な助言をしてくれた。

 彼は、いつも「こういうときは、歩きながらのほうがいいアイディアが浮かぶんだよ」といって笑っていたのだが、彼自身、研究室でも常に歩き回って考え事をしている人だった。

 哲学者のエマヌエル・カントが、毎日決まった午後の時間に、決まったルートを散歩していたのは有名な話だ。その時間があまりに正確なので、人々は散歩しているカントをみて時計を合わせたというくらいだ。

 その散歩の時間は、午前中のデスクワークに引き続いての思索の時間だったという。彼が思索を止めるのは、1日1回の食事の時と就寝中だけだった。

 読者の方々の中にも身に覚えのある人はいるだろうと思う。新しいアイディアを出そうとしたり、問題を解決しようとする場合には、座っているよりも歩いているほうがはかどる。茂木健一郎も著書「創造する脳』の中で、歩くことが創造性を高める可能性を指摘している。