>>前編より続く

課題その5:価格競争力に乏しい

 日系サービス企業がアジアの新興国に進出する際には、現地企業との価格競争を避け、アッパーミドルの価格帯を狙った戦略をとるのが主流です。国内だと大衆向けの低価格チェーンとして展開している飲食店や100円ショップなどが、現地の消費者からは「ちょっと贅沢」な店として認識されています。

 日系企業が直接の価格競争を避ける背景には、現地企業と比べた時のコスト高の問題があります。コストが嵩む理由としてイメージし易いのは、従業員が顧客向けに手厚いサービスを提供することによる追加的な工数でしょう。しかし実際に海外に進出しているおもてなし企業の経営者の声を集めてみると、それ以上にコスト増要因として痛いのは、「日本式の再現」と「法規制遵守」だと聞きます。

「日本式の再現」とは、日本国内で提供しているおもてなし環境を現地で再現しようとする「こだわり」が生むコストです。飲食店の場合、日本で提供している味を再現するために、食材を現地調達ではなく、わざわざ日本などの海外から仕入れれば、材料費や輸送コスト、関税などがかかります。店舗の雰囲気を日本と同じものにしようとして、内装費や備品の費用が割高になるケースも多いようです。

 もう1つの「法規制遵守」は、進出地域の政府が求めている規制への対応で生じるコストです。従業員雇用に関する規制(雇用保障、最低賃金水準、等)や、店舗の立地や運営に関する規制(防火のための空間確保、衛生管理の徹底、等)などが国によって存在していますが、日系企業の経営者に言わせると「競合する現地企業は、対応に費用がかかるような規制は意図的に無視していることがある」そうです。現地企業が法令違反をしているのを横目で睨みながらも、日系を含む外資系は、摘発やイメージダウンを恐れて保守的な対応をしており、現地企業に比してコスト面で不利な立場にあると思われます。

 ちなみに「価格競争力がなくても、おもてなしを訴求することで価値の競争をすればいい」といった強気な声もあります。が、本コラムの第5回「マーケティングが苦手な『おもてなし』の扱い方」でも書いた通り、

・おもてなしには無形性や変動性といった特徴があり、未体験の顧客に価値を伝えにくい
・しかも、おもてなしを評価するには、受け手である顧客にも解釈力が求められる

 といった問題があり、おもてなしに積極的に対価を支払おうとする顧客は、新興国ではまだ限定的な市場だと思った方がよいでしょう。実際に2回以上の訪日経験がある外国人を対象にした調査でも、「日本人が考えるほど、外国人は 日本のサービス品質の優位性を認めているわけではない」との見解が示されており※4、おもてなしを差別化の決定打とするのは、現時点では過度な期待ではないでしょうか。

※4 日本生産性本部「平成23年度我が国情報経済社会における基盤整備」
(サービス産業の更なる発展に向けた「おもてなし産業化」の推進に係る調査研究事業)