日本企業は「顧客絶対主義」を捨てろ!?

永井 「顧客絶対主義」では、「お客様は神様」と考えます。神様は常に正しいですよね。だから「顧客絶対主義」の考え方だと、お客様の言いなりになるのは正しいし、「お客様の言うことには絶対にノーと言わない」となってしまいます。かつての大量生産・大量販売の時代はこの考え方でもよかったのですが、現代のように市場が成熟してくると、言いなりになるだけでは差別化できず、売れません。例えばTVのリモコンがその最たるものですね。「お客さんの言いなり」になってあらゆる機能のボタンを詰め込んでしまい、どれも似たようなデザインになっています。

永井 孝尚(ながい・たかひさ)

マーケティング戦略アドバイザー。日本IBMで、製品開発、マーケティングマネージャー、人材育成責任者などを担当。2013年日本IBMを退社後は、IBMでの戦略策定や人材育成の経験を活かし、ウォンツアンドバリュー代表として著書執筆、企業幹部への講演・研修を行っている。シリーズ50万部を超えた「100円のコーラを1000円で売る方法」ほか、著書多数。永井孝尚オフィシャルサイト(http://takahisanagai.com)。

 このことは「顧客満足」について考えると理解できます。「これぐらいだろうな」という事前の期待よりも、ずっと高い価値を提供されると、私たちは満足しますよね。このように、顧客満足は「顧客が感じた価値」から「顧客の事前期待値」を引いたものです。たとえば100の事前期待値を持つ顧客がいたとします。その顧客の事前期待を100%満足する100の価値を提供しても、顧客満足は100引く100ですから、0点ですよね。言いなりになっている限り顧客の事前期待値を超えられないのです。市場が成熟した現代では、「顧客絶対主義」を徹底してすべて言いなりになっても、当たり前。0点なのです。

 現代では顧客の事前期待値をはるかに超える200の価値を提供しなければなりません。では、どうするか?

 まず「自社ならではの強み」を徹底的に考えることです。そして「その強みを必要としているお客様は誰か」を見極め、「そのお客様の課題」を理解した上で、自社ならではの強みを活かした解決策で応えることが必要なのです。だから最初に考えるべきは、「お客様の要望」ではなく、「自社ならではの強み」、「自分らしさ」です。

――『戦略は「一杯のコーヒー」から学べ!』ではスターバックスの事例が印象的です。

永井 スターバックスは、まさに「自社らしさ」を徹底的に考えて、自社の強みを活かした価値を提供しています。スターバックスのコーヒーは決して値段が安いわけではありませんよね。実はスターバックスは業績が低迷していた時期に、ライバル会社から価格の高さを揶揄した比較広告を出されたことがあります。

 しかし、スターバックスは比較広告には一切反論しませんでした。逆に「スターバックスらしさをしっかり市場に伝えよう」と考え、様々な社会問題をテーマに、スターバックスの強みである店舗での顧客と店員の触れあいを組み合わせたキャンペーンを展開して、徐々に顧客からの支持を増やしていきました。

――まず、自社ならではの強みを考えることが必要なんですね。

永井 その通りです。しかし今の日本企業の多くは、自社が十分に応えられない顧客の要望を捨てる勇気がない。それは結局、「自社の強み」とは何かを徹底的に考えていないからなのです。

 しかしかつては日本企業も、「自社の強み」を活かした経営をしていたのです。