25年前、ゲイリー・ハメルは
「自社の強み」を活かす日本企業を称賛した
永井 1990年、ロンドン・ビジネススクール客員教授のゲイリー・ハメルが『コア・コンピタンス』という考えを提唱しました。コア・コンピタンスはひと言で言うとまさに「自社ならではの強み」ですが、面白いことに、当時ソニー、キャノン、コマツといった多くの日本企業がコア・コンピタンスを活かした成功事例として取り上げられています。
――なぜ当時の日本企業ができていた「自社らしさ」を活かした戦略が、いま、出来ていないのでしょうか。
永井 ちょうど同じ時期に発生した日本のバブル崩壊が大きかったと思います。多くの日本企業が「雇用・設備・債務」という3つの余剰を抱えてしまいました。長期的にこの負の遺産解消に集中せざるを得ず、経済成長も止まり、多くの企業がリスクを避けるようになりました。
また、コア・コンピタンスには賞味期限があります。たとえばかつてのソニーは「小型化技術による携帯性」というコア・コンピタンスを活かしてウォークマンやハンディカムといったヒット商品を生み出しましたが、今やその強みはアップルやサムソンに追いつかれています。強みは常に見直して磨き続けることが必要なのですが、日本企業は本来持っている自社の強みを見失ってしまったのかもしれません。私が講演などで「自社の強みをまず見極めましょう」とご提案すると、「是非改めて考えたい」とおっしゃる経営者も多いのです。
また見方を変えると、バブル崩壊後の25年間というのは、企業の人が入れ替わるスパンでもあります。また「自分らしさ」を問い続けるのは、企業だけでなく個人も大切です。若い世代がマーケティングを学び、「自社らしさ」「自分らしさ」を問い続けるようになれば、これからの日本はもっと良くなると思います。『戦略は「一杯のコーヒー」から学べ!』を書いた動機の一つはそこにあります。
――最後に最近読んで面白かったビジネス書を教えてください。
永井 最近の一冊挙げるとしたら『マクドナルド 失敗の本質』ですね。この本もまた「自社らしさ」を見失ってはいけないということを教えてくれます。
――ありがとうございました!