会社の生き残りが最優先
その日の昼過ぎ、総経理のスティーブ、副工場長のチョウ、CFOのリー、調達担当のウェイ、コントローラーの鈴木、健太、麻理の7名は、大会議室のテーブルを囲んでいた。壁に架けられたスクリーンに麻理のPC画面がプロジェクターで投影され、薄暗い部屋の中でその画面だけが輝いていた。
麻理がキャッシュフロー予測のグラフを投影しながら、口火を切った。
「昨日頂いた情報をもとに13週間の週次のキャッシュフロー予測をしてみました。ご覧の通り、4週間目には当社の現金残高は100万元(約1700万円)ほどのマイナスになり、その後はマイナス幅が急速に拡大していき、8週間後には1000万元(約1億7000万円)を超えるまでになります。至急、資金の手当てが必要です」
リーが即座にコメントした。
「このキャッシュフロー予測は正しいのかい?現金がショートする事態はこれまで想定していなかったからな」
鈴木が応じた。
「リーさんもご存じの通り、上海地方銀行から追加融資を断られたことが直接の原因です。支店長が代わって態度が一変しました。他行も追随しているのか、軒並み断られている状況です」
鈴木のコメントに不機嫌になったリーは、健太に矛先を向けた。
「丸山君から本社に送金を頼んでくれよ。そのためにここに来てるんだろう?」
「海外事業部と話をしましたが、赤字会社への与信には時間がかかるとのことです。収益改善の見込みが条件となりますが、これまでの取り組みがまだ具体的な効果として表れていないので、本社の審査部も二の足を踏んでいる状況です。まずは自力でやれることをやりませんか」
「自力でやれることなんて限られているだろう」とリーは不満気だ。
ついに麻理が珍しく語気を荒げてリーを制した。
「あなたはそれでもCFOですか!会社が危機的状況にあるというのに、なんて呑気なことを言ってるんです!」
麻理の剣幕に圧倒され、リーもしぶしぶ頷いた。
「それでは、何ができるか片端から挙げましょう」
健太は部屋のライトをつけてホワイトボードの前に陣取り、資金繰りの施策案を書き始めた。
(1)サプライヤーへの支払いの延期
(2)従業員の給与支払いの延期
(3)顧客からの売掛金回収の前倒し
(4)余剰資材・資産の売却
(5)親会社からの資金調達(借入・出資)
それを見たウェイがすかさず反応し、健太に食ってかかった。
「ちょっと待ってくれ。主なサプライヤーに対しては、すでに厳しい品質改善を要求して、ようやく呑んでもらったところだ。さらに支払いの延期など言おうものなら、そっぽを向かれてしまうぞ!」
しかし健太も簡単には引き下がらない。
「ウェイさんの言うこともよくわかります。しかし、いくら我々の製品の品質を良くしたって、会社自体がつぶれてしまったら何もならないんです。今は、当社が生き残ることが最優先です」