2人は睨み合って、一歩も引こうとしない。
そこで、週次の資金繰り表をじっと見ていたスティーブが割って入った。
「ウェイさん、それではこうしよう。サプライヤーを2つのグループに分け、まず重要な品質改善を要請したところは、当面は支払いの延期を行わないことにしよう。それ以外のところはやってくれるね。ただし、資金繰りを見ると、銀行からの追加支援がなければ、2週間後にはそれらのサプライヤーにも協力を要請しなければならない。その際は、支払い延期を速やかに通知してほしい」
これには、ウェイも黙って従わざるを得なかった。
「スティーブ、ありがとうございます。他に施策はないですか?」と健太は全員を見回した。
するとリーが自ら手を挙げた。
「駄目元で、銀行との交渉は私が再度やってみよう」
ここで鈴木は現実的な見解を述べた。
「給与支払いの延期は難しいです。そんなことをしたら作業員の多くが辞めてしまう。親会社からの資金調達は、時間がかかるかもしれませんが、根気強くやってみます」
すると健太がまた異議を唱えた。
「それでは、せめて管理職以上の従業員・役員については、給与の10パーセントについて支払いを待ってもらいましょう。焼け石に水かもしれませんが、今は全社で危機意識を持って対処するべきです」
「となると、今すぐできるのは、品質改善要求の対象となっていないサプライヤーに支払いを待ってもらうこと、顧客からの支払いを早めてもらうこと、余分な資材や資産を売却すること、管理職・役員の給与の10パーセントの支払いを保留すること、の4点ね」
麻理がまとめると、鈴木が答えた。
「不動産の類は難しいな。この工業団地は経済特区だから、地方政府の承認なしには売却できない。処分できるのは、資材とか設備などの動産が主だね」
すると、スティーブが引き取って指示を出した。
「責任者を決めよう。まず、サプライヤーへの支払い延期交渉は、調達のウェイさん。売掛金回収の前倒しは、営業のミンさん。余剰資材・資産の売却は、鈴木さんと麻理さん。ウェイさんと相談しながら進めてほしい。最後に、銀行や本社との交渉は、私、リーさん、健太の3人で力を合わせよう。なお、従業員の給与は、役員と管理職のみ給与の10パーセントの支払いを保留する。ここにいないメンバーには、私から指示を出しておく」
いつもながら、スティーブは的確な状況認識と素早い意思決定を行う。その場にいた7人は早速行動に移し始めた。