確かに、技術は大事です。しかし、結果的に製品は、消費者の様々なニーズにこたえていなければ意味がありません。それには、先端の技術を磨く職人だけではなく、プロデューサーの存在が非常に重要なのです。

 今、日本に最も足りていないのは、職人技ではなく、技術や自分たちがかつて開発した特許をもう一度よみがえらせ、全く別のものを作り出せるプロデューサーです。若い職人を育てるために技術を継承したとしても、実はそれだけでは何も生まれません。そうした(職人さえ育成すればいいという)誤解こそが中小企業の優位性をダメにしているとのではないかということが、次第に見えてきました。つまり、職人の腕、特許とピースはあるのに、それを1つに結びつけられていないのが最も大きな問題である点を、多くの人が見落としているのです。

 若者をはじめとした日本人の多くが、スティーブ・ジョブズをリスペクトしています。ただ私は、実のところ、日本人がジョブズの本質をいまひとつ理解できていないと思っています。ジョブズは、決して発明王ではありません。ジョブズこそ、プロデューサーなのです。そのままだとガラクタになるかもしれない、いろんな技術や発明を1つにまとめてものを作り上げ、素晴らしいプレゼンテーションをする。それによって、バラバラでは価値のなかったものに、素晴らしい付加価値をつけました。彼の本質と能力の高さは、そこにあるのです。

中小企業再生に外せない3つのポイント

――今回は、これまでのシリーズで大企業の企業再生を行ってきた芝野を主人公として描いています。真山さんは、中小企業を再生させる芝野にどんなリーダー像を託したのでしょうか?

『ハゲタカ』著者・真山仁さん<br />「中小企業再生の難しさを描きたかった」「私が(主人公の)芝野が一緒に悩み、試行錯誤したひとつの答えが『スパイラル』に描かれています」

 中小企業の経営者は、一国一城の主です。10年、20年その場所で自分たちの技術を武器に生き残ってきているプライドもある。一方で、脆弱なだけにみんなで協力して、少し自己犠牲を払ってでもチームで戦おうという人はなかなかいません。では、そうした中でどんなリーダーが必要か。

 今回の小説では、芝野が中小企業のプロデューサーになれないかとチャレンジをしているのですが、とても重要な要素がありました。芝野は、これまで大企業や中堅企業の再生に成功しています。その感覚で、中小・零細企業に入っていくとどうなるのか。詳しくはぜひ読んでいただきたいですけど、いくつかポイントがあります。

 まず、ターンアラウンドを企業規模や状況によって全く違うステージでやれなければならないこと。2つ目は、コミュニケーション能力。さらにもう1つはお金を集める力が大切だという点です。その3つが揃っていなければなりませんが、芝野には1つ1つの腕はそれなりにあるものの、勝手が分からない状況に陥り困惑しました。それは、私に中小企業再生の答えが見つからなかったのと同じ理由です。ですから、私と芝野が一緒に悩み、試行錯誤してひとつの答えに辿り着いた、その行程が『スパイラル』に描かれているとも言えます。