前出の北海道新聞の記事には、その民生委員のコメントが掲載されている。

<異臭がしていたかもしれないが、猫をたくさん飼っていて、猫の臭いが充満し、気づかなかった>

 猫の臭いが本当に遺体の異臭をかき消していたのかどうかはわからない。ただ、以前も当連載で紹介したように、地域で担当の民生委員が、高齢者の家庭に30年にわたって引きこもっていた息子の存在に気づかず、父親による息子殺しの悲劇に至った事例もかつてあった。

 生活保護を受給させてもらえずに、ライフラインを止められ、空のマヨネーズ容器だけ残して餓死した大阪市の当時31歳女性の事件も記憶に新しい。 

 弱者には冷たい社会。家族ごと地域に埋もれ、情報がないゆえに、どこにも相談できないまま、本人を巻き込みながら行き詰っていく“引きこもり家庭”の闇は深い。

 どのようにすれば、今回のような一家の末路を防ぐことができたのか。地域の関係機関は、どのような関わりを家族と持ってきたのか。

 当事者たちがSOSの発信をためらわせてきた“阻害”要因を1つ1つ見つけだし、地域のみんなで一緒に考えながら“阻害要因”を取り除いていく作業が必要だ。

札幌市の元当事者がつくる
「引きこもり」の理解の場

 この事件の後、札幌市の民生委員児童委員協議会では、「引きこもり」に関する研修を行うなど、少しずつ「引きこもり」への関心と理解啓発を進めるようになった、と指摘するのは、NPO法人「レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク」の田中敦理事長(49歳)。

 若者の範疇に入らない青年・壮年期の引きこもり者への対応に軸足を置き、当事者自らが「新しい働き方」を創造するなど、幅広い活動を続ける自助グループで、田中理事長自身も元当事者だ。

 この事件について、決して埋もれさせてはならないと語る。