円安誘導政策が引き起こした<br />低中所得層の“インフレ恐怖症”円安などによる原材料価格の高騰で、パンなどの日常食品の値上げが相次いでいる Photo:AFP=時事

 スーパーマーケットで販売されている食品や日用品の価格を集計している東大日次物価指数が最近急激な上昇を示している。7日間の移動平均前年比で見ると、6月4日は+0.4%だったが、9月4日は+1.5%だ。

 だが、東大日次物価指数の上昇は、消費者の購買力の高まりを反映したものとは言い難い。食品や日用品といった生活必需品においては、企業は円安によるコスト上昇を販売価格に比較的転嫁しやすくなっている。しかし、全体の所得の伸びに限りがあるため、生活必需品の価格上昇と反比例して、消費はさえない状況にある。

 8月の景気ウォッチャー調査の「小売関連」「飲食関連」「サービス関連」はいずれも悪化を示した。7月の消費者態度指数も良くなかった。特に低中所得層および高齢者の消費者マインド悪化が顕著である。

 日本銀行が異次元緩和策を開始した2013年4月と今年7月を比較してみると、年収950万~1200万円の層の消費者態度は2.7ポイントの悪化だが、年収300万円未満は4.5ポイントの悪化だ。また、年齢別に見てみると、同期間に30~39歳は2.1ポイントの悪化だが、60~69歳は4.7ポイントの悪化だ。

 過去2年以上の大胆な金融緩和策により、円は大幅に下落し、大手企業の収益と株価は劇的に改善、資源価格の下落という日本経済にとっての“神風”まで吹いたというのに、GDPの最大の項目である消費に元気が出てこない。

 このことは極めて悩ましい状況である。株式市場関係者からは日銀に追加緩和策を求める声が増加し始めている。確かに追加緩和を行えば、円安とともにひとまず株価は上昇するだろう。しかし、それは日本の景気回復に本当に資するのだろうかと考えると、首をかしげる人が多いのではないかと思われる。