グローバル企業における
経営モデルの4類型

 グローバル経営管理の主要テーマの一つが組織論である。今日まで多くの企業が海外市場での経験を積みながら、さまざまな形態の組織をつくりあげてきた。ここではバートレットとゴシャールの4類型を用いて説明する。

<small>グローバル経営モデル最適化のナビゲーターとして</small><br />グローバルCFOの条件土田 篤
EYアドバイザリーのパートナー。大手総合化学メーカー、ビッグフォー系コンサルティング会社、投資ファンド等で、戦略やコーポレート・ファイナンスに関わるプロジェクトを担当。現在は、ストラテジー・サービスのリーダーとして、事業戦略策定、投資意思決定の支援、収益改善計画や中期経営計画の策定等、戦略やコーポレート・ファイナンス分野のコンサルティング業務に従事。米国公認会計士、日本証券アナリスト協会検定会員。

 第1がグローバル型である。海外展開を進める初期段階では、ほとんどの企業がこの経営モデルを採用している。本国で成功した収益構造や製品・サービス、オペレーションがそのまま海外に移植され、海外の販社や工場は、本国の販売部門、製造部門の強いコントロール下に置かれる。

 本国のやり方をそのまま現地に適用できる場合には、グローバル効率の観点から当モデルが最も有効に機能する。たとえば本国と同質の市場に販路を開拓するケースや、より低コストな生産拠点のみを海外に求めるケースでは、グローバル型は適切な選択であるといえる。しかし、進出先の国・地域が拡大し、多様なニーズを持つ現地市場への浸透を図ろうとすると、迅速な現地対応が難しい当モデルでは弊害が大きくなる。

 第2がインターナショナル型である。グローバル型と同様、本国の組織が強い権限を持つものの、製品や業務プロセスについてはある程度の現地化が許容される。グローバルにおける効率性を重視しつつ、現地ニーズへの対応にも目配りした経営モデルであり、1980~90年代のアメリカ企業の多くが当モデルを採用していた。当時のアメリカは圧倒的な経済大国であり、製品力、技術力などが突出していた。そのため、個別製品や一部のオペレーションをローカライズしても、本国が定める基本的なルールの優位性は揺るがなかった。しかしながら、近年の新興国における急速な生産技術の蓄積などにより、当モデルの優位性は薄れつつある。

 第3がマルチナショナル型である。現地市場への適合度合いはインターナショナル型よりもさらに高くなる。

 マルチナショナル型が生まれた背景には、海外市場の広がりや海外売上比率の高まりがある。現地ニーズへの適合と、現地の競争環境に即した迅速な意思決定が求められ、自律自走型のローカル組織が必要になった。そこで、世界の3~5カ所程度に地域統括会社(RHQ)を設立し、本国から大幅に権限を委譲するグローバル企業が増えている。

 そして第4がトランスナショナル型である。当モデルには2つの要件がある。

 1つ目の要件は、グローバル効率(第1のカギ)と現地適合(第2のカギ)を高いレベルで両立させること。そのために、より複雑な組織モデルが採用されるようになった。たとえば、IBMのようなマトリックス型、あるいは日産・ルノーに見られるCFT(Cross Functional Team)を活用した組織モデルなどが好例だろう。

 2つ目の要件は、第3のカギ、つまり海外で発掘したイノベーションを自社の競争優位の源泉として育て、世界中に展開する能力。本国から遠く離れた場所で得た学びを組織全体の血肉とする能力を備えていることである。先進事例として言及したコカ・コーラやGEは、このタイプといえる。

 トランスナショナル型の組織では、機能別のCOE(Center Of Excellence)が置かれる。COEの所在地は本国にこだわらず、それぞれの機能の能力を獲得・育成・発揮するうえで最も有利な場所に置かれる。考慮すべき要素は優秀な人材の確保、技術やノウハウの集積、パートナー企業の立地などである。たとえば、製造・調達なら生産技術やサプライヤーが集積するアジアの都市、財務ならロンドンやニューヨークが適しているかもしれない。各COEが世界中に分散すると機能連携に支障が生じるという考え方もあるが、ICT(Infor­mation and Communication Technology)の発達によりこの課題も解決されつつある。

 以上の4類型には必ずしも優劣があるわけではなく、トランスナショナル型が唯一の正解ではない。たとえば、地域特有の嗜好性がある製品、あるいは重量物を扱うビジネスでは、地産地消の傾向が強く、マルチナショナル型との親和性が高い。

 グローバル型の成功例もある。たとえば、定量的に示されるスペックと価格で勝負が決まる世界、素材や半導体などの産業ではグローバル型の企業が多い。インテルなどは、その好例だろう。あるいは、本国に蓄積されたプロセス・エクセレンスが圧倒的な競争優位の源泉である場合は、インターナショナル型が適しているかもしれない。

 繰り返しになるが、経営モデルの選択に絶対的な正解はない。事業特性や産業特性により、自社にとっての最適モデルは変わる可能性がある。すなわち、競争環境や事業構造の変化、ICT等の技術の進化に従って、経営モデルは柔軟に見直す必要がある。海外のコンペティターたちは、その点に対して意識的であり、最適な経営モデルを常に模索し続けている。

 ひるがえって、日本企業はどうだろうか。「以前からこれでやってきたから」は、理由にならない。グローバル競争がますます激化する中、経営モデルについての真剣な議論を避けて通ることはできない。

 なお注目すべきは、欧米の先進企業の多くがマルチナショナル型、もしくはトランスナショナル型を志向している点である。そこで次節以降では、日本企業にとっての参照モデルとして両モデルを取り上げ、あわせてCFOが果たすべき役割について言及する。