穴の開いたバケツをふさぐ
――応募を増やして離職を減らす

【大久保】世間的に見て評判のいい会社とは、「働きがい」と「働きやすさ」が両立している会社だと思いますが、いい会社をつくることが「アルバイトの応募を増やすこと」や「離職を減らすこと」につながります。ですので、中原先生がおっしゃった「まずは職場づくり」というお話は、現場に立つ人間としても「そのとおり」と思いますね。
ものすごくたくさんのお金をかけてアルバイトを集めても、そのまま何もしなければ結局増やした分だけ辞められてしまう。「穴の開いたバケツ」の状態です。ですから、まず「穴」をどうふさぐのか、離職を減らすためにどうすればいいかをずっと考えていました。

大久保氏がいまも店長をつとめる唯一の店舗「塚田農場 天王洲アイル店」にて取材・撮影

【中原】それはいつ頃のお話でしょうか? また、一般的によくやるのが、たとえば時給を上げるなどですが、条件を有利にしようとは考えませんでしたか?

【大久保】「塚田農場」錦糸町店の店長だった頃ですから7年前からですね。時給アップなどは最初に考えました。ただ、そうするためには「評価基準」と連動していなければいけないと思ったんですね。たとえば、時給が1100円に上げてもらえた人は、来年に1200円に上がらなかったときにきっと不満を持ってしまうと思うんです。でも、同じ立地・同じ席数・同じ商品を提供していく店が、そうやって時給を上げることでアルバイトに満足感を与え続けることには無理がある。

渋谷和久(しぶや・かずひさ)
テンプホールディングス株式会社 グループ営業本部 本部長 兼 株式会社インテリジェンスHITO総合研究所 代表取締役社長
1999年新卒にてアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)に入社。2004年インテリジェンスに中途入社。アルバイト求人広告事業(an)にて営業企画部門、大企業向け営業部門、代理店統括部門の各責任者を経て、2011年よりインテリジェンスのグループ営業本部長。インテリジェンスとテンプグループの経営統合による組織再編により、2014年4月より現職。
日本を代表する大手・成長企業に対し、テンプグループを代表して中長期的かつ幅広い視点でソリューションを構築・提供する役割を担う。
インテリジェンスHITO総合研究所では人事・組織コンサルティングサービスと「HITO(ヒト)」をテーマにした調査・研究活動を牽引している。

【渋谷】つまり、それ以外の価値を提供する必要があると?

【大久保】そのとおりです。EIS(従業員満足:Employee Impression Satisfaction) を高めるには、経済的価値と精神的価値の両方が必要です。端的に言えば、時給を上げることとやりがいをもたせることですね。

基本的な外部環境が変わらないなかで、「去年より今年、今年より来年がよくなるんだ」と感じさせなきゃいけないって、世の中のどんな店長に取ってもけっこうジレンマだと思います。

それで「何が必要か?」と考えたとき、単純ですが、「売上を伸ばすこと」が答えだと考えました。売上が増えて前年比を超えていければ、アルバイトのみんなの時給を上げられるし、やりがいも感じられる。そこで、メンバーの努力と成果を紐づけて、「自分たちの努力によってお店の売上が伸びていくんだ」ということを、数値的に目に見える形にして、定期的に発表するようにしたんです。

【中原】なるほど。やりがいを感じられるような工夫ですね。

【大久保】そうなんです。あと、時給についてはあえて最初から上限を伝えるようにしました。「これから2年間のあいだに、あなたの時給を1100円から1200円になるべく上げていきたいと思っています。でも、時給アップには限界があるから1200円以上には絶対なりません」と。でも同時に「だからこそ、『塚田農場』ではお金以外の何かをもって帰ってくださいね」とも伝えるようにしています。これは当時からずっとやっていることですね。