400円でお客さんを喜ばせる方法を
アルバイトに考えてもらう
【中原】具体的に「従業員満足」を高めるためにやったことを教えていただけますか? たとえば、正社員教育だと人材研修をやるケースなどがありますが。
【大久保】座学の研修などは他社もやっていますが、それだけだとテンションを上げているだけで、モチベーション・動機づけにはならないと思います。それより、いちばん長い時間を過ごす職場のなかで、やりがいを感じてもらうのがベストですね。とにかく日々の業務で、お客様とスタッフとが「喜びの瞬間」を共有するポイントをたくさんつくる。これをかなり意識しています。
そこでまずやったのが「400円の権限移譲」です。うちは平均客単価4000円ですが、たとえば「10パーセント引き=400円引き」のサービスというのは、他店でもやっていますよね。一方で僕は、来ていただいたお客さんに「いかに楽しく帰っていただくか」のほうが重要だと思っていたので、アルバイトがこの割引分400円を自由に使っていいということにしたんです。
【中原】面白いですね。その400円をアルバイトさんはどういうふうに使ったんでしょう?
【大久保】最初はいろいろ教えながらですが、そのうちアルバイトたちも自分で考えるようになっていきました。
たとえば、すごくモチベーションの高いアルバイトの女の子がいて、彼女は自腹で宮崎県に行って地鶏を研究したりしていました。「宮崎地鶏を焼いたときに出る脂もおいしく食べてもらいたい」というところから出てきたアイデアが、食べ終わった後の鉄板に残った鶏の脂を使ったガーリックライスです。いまではすっかり定番のサービスになりました。ライスの原価は12円ですから、まだあと388円が使えるわけです。あとは、お客様に帰りに渡している味噌も原価50円くらいですが、これももともとはアルバイトのアイデアですね。
たった400円ですが、これをアルバイトに「権限委譲」したことで、途端にみんな自分でいろいろなサービスを考えるようになった。「育成」というよりも、成長の「場」をつくったという感じですね。
【渋谷】それが従業員の満足にもつながるわけですね。
【大久保】僕らはこのサービスのことを、ボクシングになぞらえて「ジャブ」と呼んでいました。あるとき、ウェブ上に自分なりの「ジャブ」を共有するための「塚田のジョー」っていうサイトをつくったんです。このサイト名もアルバイトの1人が考えました。
「これだ!」というアイデアを思いついたアルバイトは、ケータイカメラで写真を撮って原価と一緒に投稿する。原価ベースで400円というのはけっこうなことができるんです。3年で「5000ジャブ」くらい集まりました。