プルデンシャル生命2000人中1位の成績をおさめ「伝説のトップ営業」と呼ばれる川田修氏が、あらゆる仕事に通ずる「リピート」と「紹介」を生む法則を解き明かし、発売たちまち重版が決まった話題の新刊『だから、また行きたくなる。』
この記事では、川田氏自身が出会った、「商品以外」の工夫で顧客を集めている4つの事例を特別公開する。(構成:今野良介)

「レベル10」と「レベル11」

私は、『だから、また行きたくなる。』という本の中でお客さまが「普通だな」と感じるサービスを「レベル10」。それをほんの少し超えて、お客さまの心を動かし、リピートや紹介につなげているサービスを「レベル11」いう名前で、それぞれ紹介しています。

この記事では、私が「お客さま」の立場で出会った、「レベル11」のサービスを4つ、お伝えします。すべて、「まだ商品やサービスに触れていない段階で、引き込まれた事例」です。

何がお客さまの心を動かし、リピートや紹介に繋がっているのか。

そのヒントを感じていただけるはずです。

(1)喜ばざるをえなかった「記念品」

帆風(バンフー)という会社から講演の依頼をいただいたのは、2012年のことです。それから6年の間に、4回講演をさせていただきました。

この会社は、今までに193回ものセミナーを、お客さまやお取引先、何らかのご縁のある方々に向けて、さまざまなテーマで行っています(2018年2月現在)。

その内容は自分たちの商品を売り込むための説明会のようなものではなく、「お客さまがいま求めているものは何か?」を主においています。参加料は、無料です。

2018年に私が講演にお邪魔したときのテーマは「お客さまに感動を与える。微差が大差を生む、サービスの極意」。私が『だから、また行きたくなる。』という書籍に書いたことと同じ内容で、お話しさせていただきました。

そのときに参加者全員に記念品が配られました。その記念品には、トランプのような箱の表に、こんなことが書いてありました。

「川田修様
本日はお越しいただき、ありがとうございます。
ご来場記念に「ネイルケアセット」をお贈りいたします。
指先まで気を配ることで、相手へ清潔感のある印象を与えられるようにと想いを込
めました。お客様ご自身のファンづくりにご活用ください」

100人以上の参加者全員分に、その人の名前を入れているということです。

帆風という会社は、印刷会社です。箱に名前を印刷することは、私が思うよりは簡単なことなのかもしれません。しかし、この会社は、そんな私の想像のずっと上を行く会社でした。

開けてみると、中からかわいいケースに入ったネイルケアセットが出てきました。
そのケースをよく見ると、こう書いてあります。

“Osamu”

これ、私の名前です。

まだ商品に触れてないのに、<br />もう引き込まれた。<br />感動したサービスの写真4点参加者一人ひとりの名前を入れている

参加者全員に、それぞれの名前を入れた記念品が配られているのです。これをもらって、気分を悪くする人はいないでしょう。

この会社は、参加する人に喜んでもらえる講演者を探し、会場を押さえ、何時間も前から会場入りして準備をして、参加者を迎えます。その費用や労力は相当のものです。

無料でためになる話が聞けるだけでなく、自分の名前入りの記念品をいただけるのです。帆風の「お客さまに喜んでいただこう」という気持ちは、半端なものではないことがわかります。

ちなみに、この記念品は社員の方々が自分たちで考えて決めるそうです。社員の人たちのアイデアもすごいですが、それを任せている社長も素晴らしいと、私は思います。

そして、ただ任せているだけではなく、それを評価してほめている姿が目に浮かびます。そうでなければ、これだけの回数のセミナーを行い、その都度そんな工夫が現場からアイデアとして出てくるはずがありません。

現場の人たちは自分が頑張っていることや、良いアイデアを出したことを評価されることで、自分の存在意義を感じ、また頑張ろうと思えるのです。

(2)欲しい情報がどんどん集まる一枚の貼り紙

北海道に「柳月」というお菓子メーカーがあります。世界的な評価を受けているバウムクーヘン「三方六」をつくっている和菓子や洋菓子の会社で、帯広・釧路・札幌に41店舗(書籍発刊当時)を展開している、北海道では有名な会社です。

本社と工場と店舗の複合施設「十勝スイートピア・ガーデン」は、十勝の観光名所にもなっていて、お菓子コーナーにはいつも行列ができています。

この会社の社長にお会いするために、本社に行ったときのことです。商談をするスペースに、紙が貼ってありました。

「広告かな?」と思ったのですが、違いました。

次の写真を見てください。これが、その用紙です。

まだ商品に触れてないのに、<br />もう引き込まれた。<br />感動したサービスの写真4点WIN-WINの関係を作り出す貼り紙

お菓子の新商品の情報ならまだしも、新商売で繁盛しているお店(しかも女性向きのお菓子に限定しています)、女性が憧れる「建物の外装内装の画像」とか、さらには省エネ機械まで。「10年以内で収支がプラスになるもの」と、具体的な指定まであります。

この貼り紙に書いてあることを、改めて書き起こしてみます。

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柳月では皆様からの情報をお待ちしております。

・お菓子の新商品の情報(美味しいお菓子、ヒット商品、参考品)
・新商売で繁栄している店、業種、商品、サービスの情報(女性向き、食べ物の範囲で)
・女性が憧れるような建物の外装内装の画像(レストラン、結婚式場、その他)
・チラシ、広告、各種デザイン
・省エネ機械(10年以内で収支がプラスになるもの)

よろしくお願いします。

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私はこれまで800社くらいの会社にお邪魔していますが、こういう貼り紙は初めて見ました。異業種から学ぼうとする社長の姿勢は知っていましたが、ここまで徹底されていることに驚きました。

「社長、なんでこういう紙を貼ってるんですか?」と尋ねると、社長は言いました。

「営業の人って、僕らと仲良くなるために話そうとするでしょう?でもね、天気の話とかしてもらっても、興味ないわけよ。だったら『こっちはこういうことに興味あります』って書いておけば、いろいろ調べてきてくれるでしょう?その情報が僕らにとってプラスになるのよ」

これは、私たち営業の立場からすると、とてもありがたいことです。営業にとって、会話のネタは悩みの種です。「あのお客さまのところに行きたいけど、話のネタがない」という会話は、営業の仕事をしている人ならよく耳にするはずです。

でも、こうして知りたいことを具体的に教えていただければ、お客さまの必要としている情報を集めて、訪問のネタにしようとアンテナを張ることができます。一方、柳月からすれば、欲しい情報のアンテナを、訪問する営業によって張り巡らせていることになるわけです。

ありそうでなかったWIN-WINの素晴らしいアイデアです。

柳月は、1947年に設立され、創業時はたった3人でアイスキャンディの製造と行商から始まったそうです。現在は700名以上の社員と40軒以上のお店を構え、年間300種類以上ものお菓子をつくる会社に成長しています。その原動力は、社長のこうしたに学ぶ姿勢と豊かな発想力にあるのでしょう。

さて、次は、もっと日常的な場面で出会った「少しの工夫」を紹介します。