プルデンシャル生命2000人中1位の成績をおさめ「伝説のトップ営業」と呼ばれる川田修氏が、あらゆる仕事に通ずる「リピート」と「紹介」を生む法則を解き明かし、発売たちまち重版が決まった話題の新刊『だから、また行きたくなる。』

この記事では、本書のキーメッセージであり、選ばれるサービスの条件「レベル11」を実践する北海道企業で起きた、ある夏の日の心温まるエピソードを特別掲載する。(構成:今野良介)

ショールームがあるはずの場所に、車がない

あなたは、自動車販売会社、いわゆるカーディーラーの店舗に、どんなイメージを持っていますか?

大通りに面した建物はガラス張りで、そこには最新の自動車が展示されている。
窓際に商談スペースがあって、お客さまと販売員が商談をしている。
そんなイメージではないでしょうか?

私もそうです。自動車の会社なのだから、主役である自動車をいちばん目立つ場所に置く。それが普通の発想ですよね。

ところが、十勝三菱自動車販売という会社は、違いました。

「道路に面している最も日当たりのいい場所は、お客さまの場所にしたい」

そんな社長の方針で、本来ならショールームを設置する場所を、お客さまがお茶を飲んだり、子どもたちが遊べるスペースにしているのです。主役であるはずの自動車が、道路に面した建物から、奥まった場所に置かれています。

会社にも「人格」がある

お客さまが何よりも大切。これは多くの会社で共通している考え方だと思いますが、実践できている会社はなかなか少ないでしょう。

人間に「人格」があるように、会社にも「法人格」のようなものがあります。

私はこれまで営業の立場で、多くの会社を見てきました。いい会社は、社員の方とひと言あいさつを交わしただけで、それとわかります。

初めて会った人に対して、ちょっと話しただけでも「いい人そうだな」と直感的に感じることがあると思います。会社も同じなんです。

何年も業績が伸びている会社は、敷地に入った瞬間から「いい会社だなぁ」と感じます。それは従業員の人の笑顔だったり、車の置き方だったり、靴の並べ方だったりと、理由はさまざまですが、営業の仕事をしていると直感的に判断できるようになります。

この会社もそうでした。ショールームの位置を普通の自動車販売会社と違う場所に置いていることからして明らかに「レベル11」。直感的に「いい会社だ」と思いました。

(※「レベル10」「レベル11」とは、『だから、また行きたくなる。』のキーメッセージ。お客さまが「普通だな」と感じるサービスが「レベル10」、それをほんの少し超えてお客さまの心を動かすサービスが「レベル11」です)

営業マンに出す「お茶」まで
普通とはちょっと違う

社長と商談をするためにオフィスに入ると、お茶を出していただきました。
でも、普通のお茶とはなんか違う。

顧客満足調査6年連続日本一自動車販売会社の女性社員が泣き崩れた「お客様からのサプライズ」本格的な昆布茶と、昆布をたべるための楊枝

何かと思ったら、昆布茶です。
しかも、本物の昆布が入っています。

「すごくおいしいですね。でも、どうして昆布茶なんですか?」

そう尋ねてみると、社長は言いました。

「川田さんも営業でいろんなところをまわってくるでしょう? 大体、どこの会社に行っても、緑茶かコーヒーが出てくるでしょ?せっかくお茶を出すんだったら、何か違うものを出したほうが、喜んでもらえるんじゃないかと思って」

営業マンに出すお茶ひとつに気を配る。
そんな発想ができる人は、なかなかいません。

面白い発想だと思ったのもつかの間、「よかったら、昆布茶に入ってる昆布も召し上がってください。おいしいですよ」そう言って社長が爪楊枝を出してくれました。これがまた、きれいな和紙に包まれている。

「素敵ですね」。私がそう言うと、社長は嬉しそうに笑いました。

「これ、社員の手づくりなんですよ」

そのひと言だけで、社長と社員が同じ方向を向いていることがわかります。
どれだけお客さまを大切に考えているかが、伝わってきます。

しかも、来客に本格的な昆布茶を出したり、手づくりの爪楊枝を出すという小さなことも、社長ではなく、女性社員の提案なのだそうです。ああ、間違いなくいい会社だ。予感が確信に変わりました。

「考える人」と「やる人」が同じ

この会社は、その他の仕事においても、オリジナリティあふれる、さまざまな取り組みをしていました。

たとえば、「ランチタイムプロジェクト」。一般的な企業の課題解決は、上層部の◯◯長、マネージャー、本社などが考え、現場に指示を出す、という流れで行われていますよね。

つまり、考える人と実行する人が別になっているわけです。

ところが、十勝三菱自動車販売の課題解決は、多くの場合「プロジェクト」によって行われます。プロジェクトとは、年齢、役職、部門などを問わず、同じ問題意識を持つ人たちが集まり、課題解決を行う場です。大きな課題から小さな課題まで、すべてをこのプロジェクトによって解決しています。

いずれも共通点は「まじめな雑談」。お昼休みにランチを食べながら行うことが多いので、ランチタイムプロジェクトと呼ばれるようになったそうです。社員一人ひとりが主体的に、お客さまのため、会社のため、仲間のために課題を解決することが、この会社の行動指針のひとつなのです。

従業員自身が仕事を楽しみ、さまざまな工夫をすることが、お客さまの心を動かす。まさしく、それを組織全体で実現している会社です。

そして、それがどんな結果につながっているか。

最近、この会社の社長さんとお話しする機会があり、1つのエピソードを教えてもらいました。