(3)つい開けてしまった不動産会社のDM

ある日、自宅のポストに、次のような封筒が入っていました。

まだ商品に触れてないのに、もう引き込まれた。感動したサービスの写真4点「お手紙風」の意外なアプローチ

「なんだろう?」と気になって封筒を開けてみると、1枚の手紙が入っていました。

「ある家族が、このエリアで物件を探しています。もし売却できる物件があったら、ご相談させていただけないでしょうか?」

これ、不動産会社からのポスティングのチラシだったのです。

私はこのチラシを見て、思わず笑ってしまいました。といっても、馬鹿にしているわけではありません。あえて地味な封筒で「お手紙風」にアプローチしてくる「先味」に感心してしまったのです。

毎日大量に届くダイクレクトメールやチラシの内容を、いちいち確認している人は滅多にいないでしょう。中身も見ないで捨ててしまっている人も、少なくないはずです。私もそうです。

ダイレクトメールやチラシには、大きく3つのステップがあります。

まずは、「目に留めてもらう」というステップ。
その次に、「読んでもらう」というステップ。
そして、「実際に行動を起こしてもらう」というステップです。

もちろん、3つ目の「行動を起こしてもらうこと」が目的ですが、目に留めてもらわなければ、そのステップまで進んでもらえません。

そういう意味で、どの会社も、ポストに入ってくる多くのチラシの中で「どうしたら目に留まって、読んでもらえるのか?」と、一生懸命に知恵を絞って考えているはずです。

この不動産会社の人も、必死に考えたのでしょう。
普通にチラシを入れても、簡単に捨てられてしまう。

「だったら、封筒に入れてみよう。あえて派手じゃない、チラシやダイレクトメールっぽくない、茶封筒に入ったお手紙みたいにしたらどうだろう?」

そうしてできたのが、この「春のお便り」だったのかもしれません。

私は、このDMで実際に不動産を売却したわけではありませんでしたが、そんな「先味」が気になって、封筒を開けて、中身もしっかり読んでしまいました。

ちょっとした工夫で、つらい仕事も、困難な仕事も、突破口が開かれることがあります。そのためには、自分がどんなふうに何を伝えたいかを考えるだけでは足りないのです。

「相手はどんな状況で、どんな気持ちで、どんなふうにとらえるのか?」という、相手目線でものごとを考えることが大切なのです。

(4)自然と笑顔になれたカメラマンの「鏡」

9年前に『かばんはハンカチの上に置きなさい』という本を出させてもらってから、多くの驚くようなことが私の身の周りに起きました。

そのうちの1つが、雑誌などメディアの取材をお受けする機会が多いことです。メディアの取材は、だいたいの内容に関する企画概要と一緒に連絡をもらいます。スケジュールが合えば、なるべくお受けするようにしています。

取材当日は、編集の方とライターさん、そしてカメラマンさんの3人で来られることが多く、はじめに取材を受けながらその様子を同時に撮影して、終わりの10分くらいで、立っている写真やカメラ目線のものを撮ることが多いのです。

そんな中で、ある雑誌の取材を受けたときのことです。
取材が終わって、写真撮影に入りました。

写真撮影に入る前に、私が必ずやることがあります。ネクタイを直すことです。取材は会議室などで行なわれることが多く、窓やテレビモニターに映る自分の首のあたりを見ながら直すのですが、はっきりと映るわけでもないので、どうしても手探りになってしまいます。

ある日の撮影前、いつものようにネクタイをいじっていると、カメラマンさんが、「よろしければ、これ、お使いください」と、手鏡を取り出したのです。

まだ商品に触れてないのに、もう引き込まれた。感動したサービスの写真4点ありそうでなかった、カメラマンの手鏡

私は驚いて「いつも鏡を持ち歩いているのですか?」と聞くと、びっくりする答えが返ってきました。

実はそのカメラマンさんは、事前に私の本を読んで、「自分でもお客さま目線で何かできないか、と思って鏡を持つようにした」と言うのです。撮影の時に鏡を持参するカメラマンに出会ったのも驚きでしたが、撮影する対象者の本を読んで仕事に臨むなんて、想像もしていないことでした。

「カメラマンの仕事はいい写真を撮ることだ。本を事前に読んできたからといって、仕事に良い影響があるのか?写真のクオリティが上がるのか?」

そう思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、答えはイエスでした。撮影に入る前に素晴らしい「先味」を提供された私は、鏡を用意してもらったことで、安心して撮影に臨めました。

そして、そのカメラマンさんは私にとって、初めてお会いしたとは思えない、同じ価値観を共有している人のように思えました。

カメラマンさん自身に変化があるかどうかは私にはわかりませんが、撮られる側、つまり私の気持ちとしては、やっぱり嬉しいものだったのです。

そして、笑顔を求められたときも、今までとは違う感覚で、素直に笑うことができたことを覚えています。

(参考記事)
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