スイッチを入れ、エンジンを始動させるやいなや、ごう音と共にものすごい量の黒煙が排気口から噴き出した。辺り一帯には、目も開けていられないほどの煙と、タールの臭いが立ち込め、作業員たちが一時避難する騒ぎに。今年2月、ある商業施設に設置された非常用発電機を点検した際の出来事だ。
非常用発電機とは、地震などで停電した際に、スプリンクラーや消火栓のポンプ、そしてエレベーターなどを作動させるために自家発電する設備のこと。病院や介護施設、劇場など、多くの人が集まる施設への設置が義務付けられている。
しかし、適正な点検をしていないと、排気管やマフラーなどにたまった燃料やカーボンなどが作動時に燃え、この商業施設のように煙が出たり、時には火が付いたりすることまであるという。
非常用発電機が火災の原因になるとは本末転倒な話だが、そこまで極端ではなくても、災害時など必要なときに作動しない発電機が数多く存在するのが現実だ。
社団法人日本内燃力発電設備協会の調べによれば、2011年に発生した東日本大震災の際、津波で流されたものなどを除き、整備不良によって作動しなかった発電機が全体の41%、始動したものの途中で異常停止したものが27%もあり、被害を拡大させる原因の一つとなった。
ところがである。非常用設備業界の関係者は、「その程度で済んでよかった」と明かす。
「全国に設置されている非常用発電機の多くが点検されておらず、万が一の際に作動しない可能性が高い。南海トラフ地震のような巨大地震が発生すれば、本当にまずい事態になるかもしれない」と、この関係者は指摘するのだ。