同じ大学でも、人によって見え方や感じ方はいろいろです。在校生の、自校に対する意見もさまざまです。でも、たくさんの「生の声」に耳を傾けていくと、そのキャンパス特有の空気のようなものがおのずとわかってきます。この2018年度版で19冊目になる『大学図鑑!』では、取材スタッフが直接足を運び、そうした在学生から「生の声」を聞かせてもらい、とにかくキャンパスを歩き倒して、そのレポートを書くことに注力してきました。最新版『大学図鑑!2018』の発売を記念して、巻頭特集「大学はこうして選べ!」から、受験生が志望校を決める際に押さえておきたい基本中の基本について、ダイジェストをご紹介します。
大学を選ぶとき、どんな観点から検討すればいいのでしょうか。
決まり事はありませんが、『大学図鑑!』は、次の7つのポイントについて考えてみることをお薦めしています。
1. 一般入試で入るか、推薦・AO入試で入るか?
今や、大学入学者のうち半分近くが「テストなし」で大学に入学している。「テストなし」、つまり、推薦(指定校制・公募制)・AO入試だ。ただし、これらの募集時期は早めなので、自分にとっての利用価値の有無をさっさと判断したほうがいい。一部に「推薦やAOで大学に入ったヤツは使えない」との声も聞こえてくるが、どうか。たしかに、一般入試偏差値の高い大学ほど、推薦・AO入試でも相応の力のある学生を集めていて、一般入試偏差値の低い大学ほど、勉強したくなかったから推薦・AO入試を選んだという学生が多い傾向があるのは事実だ。結局、就職試験でも基礎学力テストを実施する会社は多いから、本当に学力不足ならそこで足きりにあうだけ。大学にどう入ったかより、大学で何を学んだかが重要なのである。
2. 学部や学科をどう選ぶか?
「やりたいことがあるのなら、やりたいことができるところへ行け」それが、学部・学科選びの基本である。人気の学部や学科は時代によって移ろうし、大学選びに際して社会に出てからの有利不利ばかり気にするのもちょっと歪んでいると思うからだ。やりたいことが特にない、という人も多いだろうが、それなら無理やりやりたいことを探す必要はない。大学の勉強以外のなにかに興味を引かれるならそれでもいいし、やりたくないことしか分からないのなら、消去法で選んでもいい。そこで多少なりとも触れた学問は先の人生でいつか活きる。ピンとくるものがゼロの場合は、いろいろな学問を扱う総合○○学部や人間○○学部など、学際的な学部・学科をうろうろしてみるのも手だ。
3. 大学4年間でどれだけお金がかかるか?
ある試算によると大学4年間にかかる費用は、私立&一人暮らし(地方から東京に進学)で1341万円、国立&自宅通い(地元の国立に進学)で683万円という。デフレが長引いていても、大学で学費を下げているところは一部の私立医学部を除くとほとんどない。だから、経済的な理由で、全国的に自宅通いの学生が増えているようだ。ただし、一人暮らしで得られる自由や、衣食住を自分で管理する大切さを思い知ること、寮生活で多様な人々と触れあうことなど、実家を出るメリットもたくさんある、なので、『大学図鑑!』は一貫して一人暮らし生を応援している。もちろん、ゼミやサークルの仲間との付き合いにもお金はかかるし、留学をめざすなら自己負担額がどのぐらい必要なのか、資格取得のWスクールをする必要がありそうなら費用がどのぐらいかかるのかなど、本人に事前によく調べさせて親子で腹を割って相談しておくことが大切だろう。
4. 立地や環境はどのくらい重要か?
大学キャンパスの立地は大きく都会型と郊外型に分かれる。都会型のメリットは、他大生や社会人との接触機会が多く、アルバイトや就職活動がしやすい、交通の便がよくて通学も楽、といったところだろう。一方の郊外型のメリットは、勉強に集中できる環境で、キャンパスも広々としていて、教育施設が充実していることだろうか。また、学部や学年によってキャンパスが分かれている「学部割れ」大学も多い。キャンパスが集約されていれば、1年次から就職活動中の先輩を身近にみられたり、文化の異なる他学部との交流もしやすい。どんなキャンパスで過ごしたいか、自分の目でよくみて判断することが大事だ。
5. 資格を取れたら安泰か?
国家資格から民間資格や検定試験まで、「資格が取れる」ことをウリにしている大学がたくさんある。だが、難関の司法試験を突破しても就職難に陥る時代だ。ましてや、一般企業の普通の採用では、どんな資格をどれだけ持っているかというスペックよりも、その人のポテンシャルを重視する。難関資格があるから自分の価値は高い、と勘違いしないことが大切だ。また、頭が良ければ医学部に行け、という風潮は年々強くなっているが、医師の適性がないのに成績がいいという理由だけで医学部に入り、実際に医師になる段階で足踏みしてしまう若者も増えている。そんな医師に診察されたら患者も迷惑。職業研究をしっかりして進学先を選んだほうがいいだろう。
6. 校風は昔話なのか?
入試偏差値がだいたい同じなら「どの大学もみんな似たようなもの」と言われる。基本的にはその通りだと思う。ただし、現役の大学生でも用事があって別の大学に出かけると「こんなにうちの大学とは違うのか!」と驚くほど、各大学にキャラクターは厳然と存在する。パワフル系かスマート系か地味系か、などいくつか比較軸があるので、『大学図鑑!』を参照しながら、キャンパス見学で実際に確かめてみよう。
7. 就職支援の手厚い大学に行くべきか
今日び、どの大学も入学案内の冊子や公式HPで、就職実績や支援内容をアピールしている。だが、そこに示されている就職実績は、大学によって算出方法がまちまちだから注意して見ないといけない。大学側のキャリア教育はまだまだ発展途上にあり、力を入れるほど空回りする部分も否定できない。受験生は、そこに多大な期待を寄せずに冷静に眺めて、大学が用意してくれる各種プログラムを自分なりに活用する姿勢が必要だろう。
以上、いかがでしたか。7つのポイントをよく検討して、志望大学を選んでみてください。
そして、偏差値も無視できない
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おそらくお分かりいただけたように、『大学図鑑!』は数字に表れない大学の校風や、キャンパスの空気をご紹介することに力を入れていますが、校風や空気はそこに集まる学生がつくるものなので、入試の難易度とも当然強い相関関係があると考えています。気にしすぎはよくない。でも、無視しては始まらない入試偏差値も、本書中では河合塾のデータを参考として掲載しています。
たとえば、ここに事例として掲載したのは、「法・政治」「経済・経営・商」カテゴリー(図表)。各偏差値ランキングとともに、「経済学部と経営学部は何が違うの?」など、素朴な疑問↓にも『大学図鑑!』ならではのショートコラムを寄せていますので、ぜひご覧になって大学選びの参考にしてください。
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【事例1:経済学部と経営学部は何が違う?】
経済学は「物々交換の時代から、現代の複雑な金融活動にまで発展した人間社会の、歴史や構造などを扱う学問」、経営学は「より効率的なお金儲けや、より従業員の満足度の高い働き方などを実現するため、会社という組織がいかにあるべきかなどを扱う学問」と考えてよい。一般的に経済学のほうが学問学問している場合が多く、数学の素養が求められることも少なくない。経営学のほうは歴史が浅いため、まだまだ発展途上にある学問とも言える。同じカテゴリーの商学は、経営学と変わらないと考えて構わないだろう。
*河合塾主催の「全統模試」および直近2年間の入試結果調査から作成。2017年2月現在。偏差値は、文系は英語・国語・数学または地歴公民の3教科を用いて設定し、合格可能性50%となるラインの偏差値帯(2.5幅)の下限値。ここでは50.0以上を掲載。同一学部内に複数の学科がある場合は学部内の平均偏差値で、ここでは50.0以上を掲載。系統の分類は『大学図鑑!』判断による。
さて、今回は大学選びの基本をご紹介したので、次回からは○○大学と□□大学だったらどっちに行くべき?といったみなさんの疑問に、『大学図鑑!』独自の視点で回答していきます!お楽しみに~!
☆ぜひ聞いてみたい質問がある場合は、zukan@diamond.co.jp までお寄せください。質問採用の有無に関するご連絡は、本連載における公開回答をもって代えさせていただきます。