平凡な人間も必ず「非凡」に至る
マレーシアで営業を始めたときも、同じことを考えました。マレーシア全土に散らばるすべての繊維工場を訪問し続ける。とにかく、徹底的に「数」をこなすことにしたのです。
まず、マレーシア全土の繊維工場をすべて地図に落とし込みました。そして、シンガポールを車で出発して、もっとも効率的にすべての工場を訪問するルートを検討するなかで、あることに気づきました。マレーシアには13州があるのですが、イスラム文化圏の州とそれ以外の州で休日にズレがあるのです。つまり、その休日のズレをうまく組み合わせれば、1週間休みなく営業活動をすることができるわけです。
そして、シンガポールを起点にしてペナン島をゴールにするルートを策定。片道5日、往復10日をかけて、休みなくすべての繊維工場を回ることにしたのです。1ヶ月に走った距離は2往復で約5000km。休暇を取ったのは工場が停止するチャイニーズ・ニューイヤーの前後のみ。ほぼ365日マレーシア全土を駆けずり回る生活を4年間続けました。
文字通りハードワークでしたが、不思議とつらいと感じたことはありませんでした。
裸一貫でマレーシアに飛び込むというリスクを取った危機感も背景にはあったかもしれませんが、そんな悲壮感を感じたこともありません。むしろ、楽しかった。なぜなら、「移動距離」と「売上」は確実に正比例したからです。よく顔を出して、コミュニケーションをとる相手には、誰だって親しみをもちます。これは、世界中の人々に共通することです。だから、しょっちゅう営業にやってくる私に、ほとんどすべての工場長が好意をもってくれました。
「悪いが、今日は注文できないよ。でも、よかったら今晩メシでも食べていかないか?」
などと声をかけてくれる工場長が増えていきました。日本製の染料の品質は高く、欧米の染料よりも安価でしたから、このような人間関係を築くことができれば、売れないはずがないのです。
だから、私は営業活動に熱中していきました。何かを習得するのに必要なのは「才能」ではなく「熱中」。熱中して徹底的に「数」をこなせば、誰でも一人前になれるのです。現に私は、右も左もわからないマレーシアで、はじめて営業を経験しましたが、自然と営業のコツを体得(たいとく)することができました。このときの経験が、いまの私をつくったと言っても過言ではありません。セールスマンシップを身につけることができたのはもちろん、現在につながる人脈の端緒(たんちょ)もこのときに築くことができたのです。
だから、私はいつも若い人にこう言います。
どんな仕事でも、とにかく「数」をこなすことに集中しなさい。
徹底的にやれば、どんなに平凡な人間であっても、必ず「非凡」に至るのだ、と。