圧倒的な「数」が「質」を保証する
こんなこともありました。
大学時代には写真部に入っていたのですが、東京都大学連盟のコンテストに応募することが決定しました。テーマは「川」。まず学内でコンテストを行い、上位3人が大学連盟のコンテストに出品することになりました。
私は作戦に考えを巡らせました。写真は大好きですが、正直、才能はそれほどないとわかっていました。周りを見渡せば、自分よりセンスのいい学生がたくさんいた。だから、まともにやっても勝てるはずがないと思ったのです。
そこで、まず撮影ポイントを厳選しました。どんなに腕があっても、平凡な撮影ポイントであればインパクトのある写真を撮るのは難しい。逆に、多少腕が悪くても、特徴のあるアングルを確保できればチャンスがある、と考えたわけです。
方々を探し回って目をつけたのが、荒川大橋のそばにあった消防署の「火の見櫓」でした。私は、近所の消防署の所長に「火の見櫓にのぼって荒川を撮影したい。許可してほしい」と直談判。当初は、「危ないから」と取り合ってくれませんでしたが、しつこく懇願したらしぶしぶ許可を出してくれました。
そして、天気のいい日に狙いを定めて、夕方から明け方まで火の見櫓に陣取って写真を撮りまくりました。1000枚以上は撮ったでしょうか。陽が沈むときや夜が明けるときには、秒単位で光の具合が変化していきます。才能のない私が、狙ってベストのシャッターチャンスをとらえられるはずがない。だから、とにかく「数」を撮ったわけです。
翌日からは、暗室にこもってひたすら現像しては一枚ずつ入念にチェックする毎日。地味な作業を執拗(しつよう)に続けました。すると、1000枚のうちに2~3枚くらいは奇跡的に美しい写真があるのです。
こうして厳選した1枚をコンテストに提出。学内選抜を勝ち抜いたのはもちろん、なんと大学連盟コンテストで金賞を受賞。平凡な人間であっても「数」をこなせば、圧倒的な「質」を生み出すことができる。このとき、私は、この真理を実感したのです。