データ解析の確度は、集まった情報が多ければ多いほど上がっていきます。現在、ビジネスに役立てるために、あらゆる企業がデータを少しでも多く集めようとしていますが、ビッグデータには複雑なものがあるため、「たくさんデータを集めたけれど、どう解析すればいいかわからない」という課題を抱える企業もあります。データ解析にはどのパラメータが重要なのかを判断することが必要ですが、これまではコンピュータは使うとはいえ、分析の方針は人間が決めていました。

 そこで今、注目されているのがAI(人工知能)です。AIを使えば、人間が解析に関わる必要はなくなります。データを投入するとAIが相関関係を自分で解析してくれ、さらにデータを使って学習することにより、AIが自動的に能力を増強していくからです。ニューラルネットワークやディープラーニングと呼ばれる技術を使ったAIの研究が熱を帯びているのは、そういう可能性が見えてきたからです。

 グーグルのデータセンターでは、空調をビッグデータをもとにAIに最適制御させて、40%もの省エネを可能にしたといいます。解析の定石は、AIに最初にそれを仕込んだ人間さえ、もはやわからない。コンピュータが勝手に広がって行くイメージですね。

 身近な例を挙げると、グーグルは前述の技術と同じものを使って、機械翻訳の翻訳精度を飛躍的に向上させています。今やリアルタイムで翻訳できるまでになっており、こうなると英語教育のポイントは語学テクニックより英語圏の人とのコミュニケーションをどうするかといった本質的な部分が中心になっていくかもしれません。

 IoTで大量のビッグデータを集め、それをAIで解析し、フィードバックすることにより、ビジネスの可能性はどんどん増していくのです。

文系出身者でもビッグデータや
ディープラーニングを学ぶべき時代

――日本に本格的にIoTが浸透するためには、国ぐるみの取り組みも必要ですね。

 そうですね。日本も最近、官民連携でデータを有効利用しようという法整備を進めていますが、欧米の取り組みと比べればまだ後進です。たとえばドイツは、「インダストリー4.0」を掲げ、官主導で標準規格をつくり、自国の産業全体を有機的に自動連携しようとする産業政策を進めています。その実現は、まさに製造分野でのオープンIoTと言える。日本はこうした政策の重要性を理解はしていても、まだ本格的に踏み出せていない印象があります。

――若い世代を中心に、IoTに明るい人材をボトムアップで育てていくことも必要です。

 ビジネスシーンでは、IoTやAIの専門家がまだ少ないのが現状です。大学の経済学部や商学部を卒業しても、それらの知識は身に着かないので、実践的な教育が必要。そうした観点から、東洋大学では情報連携学部(INIAD)大学院 情報連携学研究科を開校し、現在、私が学部長を務めています。

 そこでは、一般企業のビジネスパーソンや役員の再教育も手がけています。これからは、ビッグデータやディープラーニングの時代。文系出身者でも、会計学や経営学と一緒に、プログラミングや統計学も学ぶべきなのです。

坂村健(さかむら・けん)
INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長、工学博士。1951年生まれ。東京都出身。1984年からオープンなコンピュータアーキテクチャ「TRON」を構築。携帯電話、家電、デジタル機器、宇宙機の組込OSとして世界中で多数使われている。現在、IoT社会実現のための研究を推進。2002年1月よりYRPユビキタス・ネットワーキング研究所長を兼任。IEEEライフ・フェロー、ゴールデンコアメンバー。2003年紫綬褒章、2006年日本学士院賞受賞。2015年ITU150Award。『ユビキタスとは何か』『不完全な時代』『毛沢東の赤ワイン』『コンピューターがネットと出会ったら』『IoTとは何か』『オープンIoT考え方と実践』など著書多数

(まとめ/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)