7月22日(土)に放送されたNHKスペシャル『AIに聞いてみた どうすんのよ!? ニッポン』がネットをざわつかせている。AIといえば、囲碁や将棋で人間に勝ったとか、レンブラント風の絵を描いたとか、いまの仕事の半分がなくなるとか、ビジネスをどこまで変えるかとか、そんな話ばかりで、社会をどう変えるのかについてはあまり語られてこなかった。
今回、NHKは独自のAIを開発し、「AIがどこまで社会課題の解決に役立つのか」に挑戦した。この試みは非常におもしろいし、有益だと思う。志の高さも評価したい。ただ、内容と表現に多少の難があり、それがネットをざわつかせ、ちょっとした炎上騒ぎになっているのだが、今回はそのあたりを検証しながら、AIがどこまで社会課題の解決に役立つのかを考察してみたい。
「AIひろし」が導き出した
常識外れの5つの提言
AIが社会課題に挑むときの利点は2つある。ひとつは、AIならではの「人間では到底不可能な、膨大な量のデータを分析できる」こと。もうひとつは、「人間が持つ感情バイアス、思想バイアスを完全に払拭できる」ことだ。現在のAIには「忖度」という概念がないので、人間社会の都合など関係なく、冷徹な結果を出してくる。
ビジネスシーンと違って、社会課題と向き合うとき、人間は多分に感情バイアス、思想バイアスが働いてしまう。以前、アフリカ出身の女性エコノミストが、アフリカの貧困をなくすためには経済的援助を止めることだと主張する本を書いて世界中で大激論になったことがあるが、その説がいくら論理的に正しくても、途上国の貧しい人々に感情移入してしまっている人たちにはなかなか冷静な議論ができない。しかし、AIにはそのような感情バイアスがないので、どれほど常識外れであろうと、遠慮なく事実を伝えてくる。
ちなみにNHKが開発したAIは、番組MCを務めたマツコ・デラックスが「ひろし」と命名したので、本稿では「AIひろし」と表記する。このAIひろしが膨大なデータから導き出した提言も、かなり常識外れだ。番組では、具体的に次の5つを提言している。
1) 健康になりたければ病院を減らせ
2) 少子化を食い止めるには結婚よりもクルマを買え
3) ラブホテルが多いと女性が活躍する
4) 男の人生のカギは女子中学生の“ぽっちゃり度”
5) 40代ひとり暮らしが日本を滅ぼす
にわかには信じがたい提言ばかりだろう。司会のマツコも言うように「これがホントだったら、いままで信じてきたことはなんだったの?」である。あまりに常識外れなので、ネットでも「相関関係と因果関係を混同している」「関係が逆だ」などの批判が溢れている。
たしかに番組も認めているように、AIひろしは相関関係しか提示しない。相関関係の意味を分析したり因果関係を突き止めたりすることは、まだ人間の作業であると言っている。なので、番組で紹介されたAIひろしが言っていることは、相関関係でしかない。しかし、科学においても相関関係は重要な要素だし、マーケティングの現場では、因果関係が不明でも、相関関係が売上アップに貢献することは実際にある。
【参考】ビッグデータマーケティングを考える上で最も重要な2大要素
社会課題の解決も、マーケティングと同様に「解決」が目的なので、たとえ因果関係が明確でなくても、相関関係が解決に寄与するのであれば問題はない。重要なことは「分析」だ。常識外の相関関係が指し示されたときに、それがなんの意味を持つのか、現場で有効なのか、あらゆるバイアスを排除して検証し、分析することだ。
そこで本稿では、この常識外れの提言を僕なりの視点で分析してみたい。というのは、どうもこの番組は説明が不十分なので、一見しただけでは何のことかわからない、納得できないと感じる人が多いだろうと思うからだ。掲載スペースの関係で大雑把になってしまう部分もあるが、なるべく重要なポイントに絞って考察したいと思う。