佐藤 昨年(2016年)のオバマ前大統領の広島訪問もまたモラルリーダーシップを示した事例でしょうか。

サッチャー そうです。オバマ大統領(当時)は、アメリカの大統領として初めて広島を公式訪問し、アメリカが広島の人々に被害をもたらした事実を認め、原爆投下の犠牲者となった方々を追悼しました。オバマ大統領が被爆者の方の手を握り、抱き寄せた場面は大変感動的でした。それは彼が大統領としてだけではなく、一人の夫として、一人の父親として、一人の人間として、敬意を払っていることを象徴するシーンでした。

ハーバードの教授が日本に願う「世界の良心であり続けてほしい」サンドラ・サッチャー(Sandra J. Sucher)教授

 オバマ大統領は、また次のように世界に呼びかけました。

「私たちは過去の過ちを繰り返す遺伝子によって縛られているわけではありません。私たちは学ぶことができます。選択することができます。子どもたちに新しい物語を言い伝えることができます。それは、私たちには共通の人間性があることを伝えるストーリーであり、今よりも戦争の数が減って、残虐な行為が簡単に許されなくなるような世界を実現することが可能であることを示すストーリーです」(*2)

 世界には戦争の犠牲となった多くの「被害者」がいます。被害者側は、加害者側に自分たちの痛みをわかってほしい、と願っているものです。オバマ大統領の人道的な行動は、こうした世界の人々の願いに応えるものだったと思います。

佐藤 世界の超大国アメリカの大統領はどのようなモラルリーダーシップを示すべきだと思いますか。

サッチャー アメリカ国民だけではなく、世界中の人々が、アメリカの大統領には発言や行動を通じてモラルリーダーシップを発揮してほしいと願っています。

 アメリカには、自由を尊重し、人権を守ってきた歴史があります。そのことをアメリカ人は誇りに思っています。そんな私たちにとって最も恥ずべきなのは、奴隷制を長く続けてきた歴史です。その負の遺産が今も人種間に対立をもたらしています。アメリカは「人種のるつぼ」として移民を歓迎しなければなりません。どんな時代であっても彼らの人間性や社会的な貢献力を尊重しなくてはならないのです。アメリカの大統領が移民に対して人道的な視点をないがしろにした政策を実施することを歓迎する人は、世界のどこにもいないと思います。