自然を主役にして人間の歴史をひもといてみると、どんな側面が見えてくるのだろうか。環境史の授業の中で日本史のテーマを取り上げているのが、イアン・ジャレッド・ミラー教授だ。東京の電化史、築地市場、軍艦島などから、ハーバードの学生は何を学んでいるのだろうか。話題の新刊「ハーバード日本史教室」からお送りする。(2017年4月14日、ハーバード大学にてインタビュー)
佐藤 ミラー教授は現在、日本のエネルギー史についての本を執筆中とのことですが、そのきっかけとなった出来事は何でしょうか。
ミラー 東日本大震災と福島第一原子力発電所事故です。今、日本のエネルギー政策は転換期にあると思います。特に原子力発電を続けるのか、続けないのかというのは大きな問題です。また、現代文明は石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を主たるエネルギー源としていますが、化石燃料よりも人間や自然にやさしいエネルギーはないのだろうか、という点にも非常に興味があります。
歴史をふりかえってみると、世界の民主主義は「化石燃料文明」の中で育まれてきました。しかし、その民主主義を維持しながら、エネルギー源を転換する、ということは果たして可能なのでしょうか。その答えは日本のエネルギー史の中にあります。日本が非常にうまくエネルギー源の転換をしてきた国だということを歴史が物語っています。
佐藤 たとえばどのような方法で転換してきたのでしょうか。
ミラー 1853年の黒船来航当時、日本のエネルギー源はバイオマスでした。バイオマスとは、廃材、古紙、家畜の排泄物など、動植物等から作り出される有機性のエネルギー資源のことで、化石燃料を除くエネルギーの総称です。
それから50年ほど経った1903年には、日本のエネルギー源の大半は石炭に変わっていました。わずか50年で、モノを製造するエネルギー源が、バイオマスから石炭に入れ替わってしまったのです。これは驚くべき変化です。