日本もAmazonやGoogleを生み出せる、IoT時代の可能性IoTが進化すれば、日本もグローバル企業を輩出できる可能性がある――いくつもの規格を普及させた藤原洋氏が語る情報通信産業の未来とは?

「イーサネット」「MPEG」「デジタルハイビジョン」「ブロードバンド」など、現在よく聞く規格は、この人物の手によって普及したと言っても過言ではない。インターネット総合研究所の代表取締役、さらにはブロードバンドタワーCEOも兼務する藤原洋氏だ。NTTぷらら・板東浩二社長が、藤原氏にITのこれからを聞いた。

デジタルハイビジョン標準化で
日本のガラパゴス化を回避

板東 藤原さんがいなければ、「デジタルハイビジョン」や「MPEG」は現在とは別の形になっていましたよね。最初はどんな仕事をされていたんですか?

藤原 コンピューターの黎明期だった1970年代後半に、日立エンジニアリングで(工場の機械等を制御する)制御用コンピューターや、これらをつなぐLANの開発に携わりました。当時はLANでどうデータを転送するか、その方式が規格化されていなかったんです。そんな中、日立エンジニアリングは信頼性が高い「トークンリング」というデータ転送方式を使おうとしていました。でも私は、現在使われている「イーサネット」が普及すると考え、上司に頼んでこっそり開発を進めました。こちらのほうがシンプルで、情報転送処理が単純な作業の繰り返しで済んだからです。

板東 おいくつだったんですか?

藤原 30歳少し前です。ビル・ゲイツさんと同世代で、何度か会っています。彼もまた、将来スタンダードになるものを見抜く目を持っていましたね。まだコンピューターのCPUが4ビットから8ビットになり、工場や発電所の機械を制御するために使われていた時期に、ビルは「これが進化してマイクロコンピューターになる」と言っていました。パソコンはおろか、電卓程度の情報処理能力しかない時代に「パーソナルな仕事でもコンピューターを使う時代が来る」と読んでいたんです。

 彼は「マイクロコンピューターのためのソフトをつくる」から、社名は「マイクロソフト」なのだと言っていました。面白いですよね(笑)。スティーブ・ジョブズさんも同じ未来を予測していて、彼は「大学で研究していたけど、教授がバカだから会社つくった」なんて言っていましたね。

板東 その後、藤原さんはアスキーに転職され、ISDN対応の画像圧縮技術とCD-ROMに対応した画像圧縮技術(MPEG)を世界標準化されましたね。

藤原 動画像のデータを配信する場合、データを圧縮して、送信して、受信したら見られるように展開する、という作業が必要になります。この規格である「MPEG」の標準化に取り組んだんです。

板東 その後は、デジタルハイビジョンの標準化を成功させています。

藤原 これは大変でした。NHKさんは1993年の電波監理審議会で、ハイビジョンをアナログで送信する「アナログハイビジョン」という技術を採用したんです。しかし、米国でも欧州でも「ハイビジョン放送のデータはデジタルで配信する」と決まっていたので、私は「まずい」と直感しました。もしあの時、アナログハイビジョンでの配信が始まり、これに対応したテレビを売れ…となったら、世界で日本のテレビだけが画像が悪かったと思います。完全なガラパゴス化です(笑)。そこでまず、私が立ち上げた当時の郵政省スポンサーの研究所で通信速度が15Mbpsあればデジタル化できる、と実証しました。NHKさんは「30Mbpsないとできない」というんですが「MPEG-2を使えば可能」と証明してみせたんです。

板東 反対する方もいらっしゃいましたよね?

藤原 テレビを作っている大手メーカーさんは、既にアナログハイビジョンテレビの製造を始めていたから、私の提案には困惑したと思います。一方、民放さんは私を応援してくれました。アナログだとBS放送は4チャンネルしかつくれないから、既存の民放各局は参入できなかったんです。しかしデジタルなら民放さんもチャンネルを持てるから、各局が私の案を支持してくれました。

板東 藤原さんもそうですが、自信を持って「次の時代がこうなる」と言える人たちって、何か共通点があるんですか?

藤原 (少し考え)他人の評価を気にしませんね。

板東 ああ、藤原さんを見ているとわかる気がします。