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ジョーンズ グッゲンハイムはユダヤ人ですから、ヒルトンの動機とは少し違います。彼が多額のお金を寄付したのには2つ理由があると思います。1つはシオニズムを支援するためです。19世紀~20世紀、ソロモン・グッゲンハイム、サミュエル・ザマレーをはじめ、ユダヤ系アメリカ人の実業家の多くは、ユダヤ人の民族国家をパレスチナに樹立するために、金銭的な支援を行いました。

 もう1つは、アメリカ社会におけるユダヤ人の地位向上です。20世紀のアメリカにはユダヤ人に対する根強い差別がありました。グッゲンハイムは美術品を収集し、ニューヨークに美術館を建設しましたが、これもまたユダヤ人に対するイメージをよくするためであったといわれています。キリスト教と違ってユダヤ教は布教活動をしませんから、イメージをよくしてユダヤ教徒を増やそうと思ったわけではありません。ただ、アメリカ社会から尊敬される存在でありたいという気持ちから、美術館や財団をつくったのです。

佐藤 合理的なアメリカ人は、皆、節税対策で寄付をしていると思っていました。

ジョーンズ 寄付が節税につながるようになったのは最近のことですよ。それに20世紀の税率は今よりずっと低かったため、税金上の理由で寄付したわけではありません。

佐藤 21世紀を代表する起業家、ビル・ゲイツ氏やウォーレン・バフェット氏も同じように宗教的な理由から慈善活動を行っているのでしょうか。

ジョーンズ そうは思いません。アメリカには末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教)のような強力な宗教グループがいくつかあり、こうしたグループ出身の経営者は宗教的な理由から寄付活動を行っていますが、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットには違った動機があると思います。

 彼らにとって何よりも大事なのは、現在の資本主義システムを維持することです。なぜなら、彼らは現在の経済システムの恩恵をうけて、大富豪になったからです。その前提となる資本主義の正当性が脅かされては困るのです。20世紀前半、資本主義は富の集中をもたらし、資本主義そのものが危機にさらされ、共産主義国家がうまれました。同じようなことがおこっては困る、と彼らは考えているのです。