ハリウッド映画のような本物志向の大作主義
1994年12月にハリウッド映画『ストリートファイター』が公開された。この映画は、同名のカプコンの家庭用ゲームソフトを原作にしたものだ。ハリウッドは当初、ライセンスの供与を提案してきたが、当社が40億円の制作費を出して自主製作した。
当時、ハリウッドは『ストリートファイター』だけでなく任天堂の『スーパーマリオシリーズ』など、世界的にヒットした家庭用ゲームソフトに熱い視線を向けていた。ただ、それまでゲーム作品の映画化はことごとく失敗していた。そこでカプコンは自主製作を申し出たのだった。他人任せではなく、自分たちの手でゲームが持つ“味”を正確に映画に盛り込みたかったし、なによりもハリウッドの映画制作の実態をこの目で見て学びたいと思ったからだ。
タイのバンコクで撮影が始まると、俳優やスタッフが集結し、私も出資者として顔を出した。50台ほどのバスを借り切り、その椅子を全部外して衣装部屋が作られた。ある日監督から「ちょっと来てくれ」と“衣装バス”に呼ばれ、その場で私は「50代の日本人の国連軍・戦闘隊長役」を演じることが決まった。映画は累計で150億円ほどの収入をもたらし、公開から20年以上経った今でも年間数千万円の収入を上げている。
家庭用ゲームソフトの市場では、100万本以上売れたソフトをミリオンセラーと呼び、大ヒットの目安としている。カプコンは創業以来、『ストリートファイター』『バイオハザード』『モンスターハンター』のシリーズなど80タイトル以上のミリオンセラーを放ち、ゲーム業界でも出色の存在になっている。
ミリオンセラーを放ち続ける開発の姿勢は「ハリウッド映画のような本物志向の大作主義」と言われる。このことを「撃つのは巨砲のみ」と書いた新聞報道もあった。それが褒められているのか若干の皮肉を込めたものなのかは報道からは分からない。
ただ一つだけ言えるのは、「良い作品でなければ売れないし、世界ブランドを指向しなければゲーム業界では生き残っていけない」ということだ。カプコンのゲームソフトの開発の発想と体制は、それが根底にある。