「予防こそ最大の治療」!
がんや「手足口病」にも有効
光触媒は細菌やウイルスを死滅させるだけでなく、その死骸を分解する力も持っており、がん細胞に対しても同様の効果を発揮することが確認されています。
本書には、私たちが行った典型的発がん細胞(ヒーラ細胞)に対する光触媒による殺細胞効果の結果の一例があります。
いままで以上に、光触媒を活用したがんの光化学療法を開発していきたいと考えています。
また、これからは「予防こそが最大の治療」の時代になるといわれています。
たとえば、乳幼児を中心に夏場に流行する病気のひとつに「手足口病」があります。
エンテロウイルスなどが原因の感染症で、口の中や手、足に出る発疹がおもな症状ですが、まれに髄膜炎などの合併症を引き起こすことがあります。
手足口病は、くしゃみなどの飛沫や便を通じて感染するため、保育施設などで集団感染を起こしやすい病気です。
予防には手洗いの励行などが基本ですが、乳幼児の身近にあるオモチャや絵本、タオルなどを光触媒コーティングすることで、予防効果があるのではないかと考えています。
中国南京の東南大学の若手教授 顧忠沢氏は、かつて私が東京大学教授のときの学生で、いまでは中国のバイオ系の研究者として活躍していますが、中国でも手足口病は大問題で、共同で対策を考えていこうと話し合っているところです。
具体的にひとつの感染症にターゲットを絞り込んで、効果的な光触媒予防法を確立することで、やがて他の感染症へも応用可能な知見が得られるでしょう。
光触媒を発見して今年で50周年。いまや東海道・山陽新幹線の光触媒式空気清浄機、成田国際空港の光触媒テント、パナホームの一戸建てからクフ王の大ピラミッド、ルーブル美術館、国際宇宙ステーションまで、その活躍の場は多岐に及んでいます。
本書には、その基本から最新事例まで140点以上の図表と写真が掲載されています。ぜひご一読いただければと思います。
東京理科大学学長
1942年生まれ。1966年、横浜国立大学工学部卒。1971年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1971年、神奈川大学工学部専任講師。1975年、東京大学工学部講師。1976~77年、テキサス大学オースチン校博士研究員。
1978年、東京大学工学部助教授。1986年、東京大学工学部教授。2003年、財団法人神奈川科学技術アカデミー理事長。2003年、東京大学名誉教授。2005年、東京大学特別栄誉教授。2010年、東京理科大学学長(現任)。現在、東京理科大学光触媒国際研究センター長、東京応化科学技術振興財団理事長、光機能材料研究会会長、吉林大学名誉教授、上海交通大学名誉教授、中国科学院大学名誉教授、北京大学客員教授、ヨーロッパアカデミー会員、中国工程院外国院士。これまで電気化学会会長、日本化学会会長、日本学術会議会員・化学委員会委員長などを歴任。
【おもな受賞歴】文化勲章(2017年)、トムソン・ロイター引用栄誉賞(2012年)、The Luigi Galvani Medal(2011年)、文化功労者(2010年)、神奈川文化賞(2006年)、恩賜発明賞(2006年)、日本国際賞(2004年)、日本学士院賞(2004年)産学官連携功労者表彰・内閣総理大臣賞(2004年)、紫綬褒章(2003年)、第1回The Gerischer Award(2003年)、日本化学賞可(2000年)、井上春成賞(1998年)、朝日賞(1983年)など。オリジナル論文(英文のみ)896編、著書(分担執筆、英文含む)約50編、総説・解説494編、特許310編。