Photo by Toshiaki Usami
数年前まで、携帯電話のカメラできれいな写真を撮るのはひと苦労だった。小さくて軽過ぎるため、すぐに動いてブレてしまうからだ。今は、「手ブレ補正機能」が、この悩みを解消してくれる。
この技術を開発したのが、設立7年半の新鋭企業、モルフォだ。手ブレ補正以外にも、保存されている写真を高速で表示する技術、人物の顔を検出し追跡する技術、ワンセグ放送の動画を滑らかに再生する技術など、展開するソフトウエア製品は約30に及ぶ。
「国内メーカーのすべての携帯電話に、なんらかのかたちで当社の技術が搭載されている」と、社長の平賀督基は胸を張る。
モルフォは、東京大学大学院で情報科学を研究していた平賀が中心となって立ち上げた“東大発ベンチャー”である。もっとも、平賀は最初から起業を目指していたわけではない。大学院修了後、いったん他のベンチャー企業に就職したのだが「なかなかやりたいことができなかった」。そこで、東大と連携するベンチャーキャピタル、東京大学エッジキャピタル(UTEC)の支援を受け起業に至った。
平賀がやりたかったのは、「アルゴリズム(プログラムの基礎となる情報処理の手順)の研究から、製品化まで全部」。しかし、日本でソフトウエアの要素技術から開発するような企業は、きわめて限られているのが実情だった。
起業時の社員は自身を含めて4人。うち3人が技術者だった。技術力には自信があったが、事業として花開くまでには2年を要した。その間は「ほぼ売り上げゼロ」の状態だった。UTECは、成果を急かすことなく支援を続けてくれたものの、当然、焦りは募った。
設立から2年後、NECの携帯電話に前述の手ブレ補正技術が採用される。将来のニーズを見越し、他社に先駆けて開発したことが認められたのだ。採用が決まったのは、くしくも平賀の誕生日だった。
商品化された後、社員と家電量販店に行って、製品のカメラを試した。「本当に載ってるぞ」と喜びを分かち合った。
研究開発成功のカギを握るのは
“ターゲット”設定
モルフォの強みは「あくまで要素技術、基幹技術」と平賀は強調する。大手メーカーの製品に、わずか社員数人のベンチャー企業の製品が採用されたのは、むろんその技術力の高さが評価されてのことだ。
だがもう一つ、平賀の戦略眼によるところも大きい。独自技術を誇る産学連携ベンチャーは少なくないが、事業として成功しているところは多いとはいえない。シーズ(事業の新しい種)は皆持っているが、それを何に展開していくのかの解が見つからないのである。