AI脅威説など、さまざまな説が飛び交うが、実際のところ、AIは何が得意で、何ができないのだろうか?完全な自動運転は現段階ではまだ難しい一方、絵を描いたり作曲はできるAI。AIの分野で日本をはじめシンガポールやドイツでも活躍する若者、株式会社ABEJAの岡田陽介社長に聞く。(経済ジャーナリスト 夏目幸明)
完全自動運転が
当面実現しない理由
夏目 前回までの話を整理しましょう。まず、SF映画に出てくるロボットのような「汎用型AI」はまだ研究途上にあって実現の目処は立ってません。しかし「ディープラーニング」によって、人間しかできなかった、経験やカンが必要な作業もAIが代わりに行えるようになった、と。今回は、「近い将来、AIはどこまで進化するのか」という話を聞きにきました。
岡田 全産業が変わっていきます。例えば医療。今までCTスキャンやMRIの画像を元に、医師が診断してきました。長年の経験や診察眼が必要ですし、病気を見落とすリスクもありました。しかし、ディープラーニングによって何百万枚という画像から特徴を学んだAIは「ここにガンがある」と判断できるので、見落としが減るはずです。また、MRIでは人間の脳などが「輪切り」のような形で画像化されますが、コンピューターはこれを3次元画像として捉えることができます。
夏目 それ、脳動脈瘤の検査などで既に使われていると聞いています。
岡田 あとは自動運転です。自動車にレーダーやカメラを搭載し、不意に何かが飛び出してきたら減速するなど、一部は既に実現しています。
夏目 完全自動運転はまだなんですか?これが実現すれば物流業界のドライバー不足が解消しますよね。また「AIの運転なら人間より反射神経がいいから、高速道路でより高速が出せるようになる」なんて話もあります。
岡田 可能なのですが、人間が解決すべき問題が残っています。たとえば「事故を起こしたら誰の責任なのか」とか…。また「急に車道へ人が飛び出してきて停車するのは不可能、しかし周囲を走る自動車にぶつかれば避けられる。この場合、AIはドライバーと歩行者、どちらの命を優先すべきか?」とか。
夏目 しばらくはAIを「運転のサポート」に使うというのが現実的なんですね。音声認識はどうですか?
岡田 例えばコールセンターが変わっています。お客様とオペレーターが何を話しているかを解析して、質問への答えや、お客様に確認すべきことをオペレーターの目の前の画面に表示する、といったことが既に実現していますね。顧客対応時間が劇的に減ったそうです。また、長年の経験とカンが必要な聴音検査も、AIが代行できます。
夏目 音と画像の解析を続ければ、営業や恋愛で「これは脈アリ」とかわかったりしますね(笑)。
岡田 そうかもしれませんね(笑)。また、映像や音声だけでなく、蓄積されたデータから最適解を導き出すことも可能ですよ。例えばクレジットカードの使用状況をモニタリングしていて、AIが「この会員が、ここでこんな額の買い物をするって不思議だな」と判断すると、クレジットカード会社から会員に確認の連絡が入る、といったことが実現しています。
夏目 “AI刑事”の登場だ。でもさすがに作曲家とか画家にはなれませんよね?