インターネットで誰でも簡単に、航空券やホテル、旅行の予約ができるようになり、街中では旅行会社の看板が減った。既存の旅行会社のビジネスモデルが転換期を迎えるなか、最大手のJTBは旅行ビジネスから旅行周辺ビジネスに軸足を移し始めた。株主総会の運営をしたり、大学生の就職支援を行っているのはその一例だ。新しいビジネスモデルの全貌を探った。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)
今年11月初旬。タイの洪水で、ある日本企業がタイ工場の従業員を数百人規模で日本の工場に受け入れるというニュースが流れた。
この一報に反応したのが、JTB法人東京の大塚雅樹・取締役マーケティング部長。バンコク支店に電話し、「タイから日本への従業員の移動をJTBに任せてくれないか、と売り込め」と指示を飛ばした。同時にその日本企業の本社などにも営業をかけた。
JTBが提案したのはバンコクから成田へ、そして成田から工場まで人を運ぶ仕事だけではない。国内工場のある自治体などに働きかけ、歓迎イベントや国際交流までも企画していたのだ。
「タイ人にとっては、慣れない土地で家族と離れた寂しさもある。その日本企業の総務の人は業務に追われ、彼らの気晴らしまで考える余裕がない。お客が気づいていないが必要なことを提案していくのが法人営業の強み」と大塚取締役は言う。
JTB法人東京──。一般には聞きなれない名称かもしれないが、2006年の地域分社化で設立、首都圏に本社を持つ法人に特化した営業部門である。700人規模の営業担当者が企業や官公庁、学校をこまめに回っている。
旅行会社の法人営業といえば、出張手配と社員旅行、研修旅行、優秀な代理店や営業パーソンを招いたインセンティブ旅行が典型だ。もちろん、今でも中核を占めていることに変わりはないが、「旅行がコアビジネスだが、お客の悩みを聞き、そのソリューション(解決)を提供していくのも仕事」と大塚取締役は強調する。