課長に足りなかったのは
信頼関係を構築する傾聴スキル

 ここで、私たち産業カウンセラーが現場で使う「傾聴」をご紹介しましょう。

 傾聴と聴くと、「ああ、相手の話を一生懸命聴いて受け入れることでしょ」と思う方もいるかもしれません。それは、ある意味で正しいのですが、それで全てではありません。数多くの会社員のカウンセリングを行った経験から言っても、この点を正しく理解している人は意外と少ないのが現実です。

 ビジネスシーンにおける傾聴には「目的」があります。それは「相手との信頼関係を構築する」ことです。「相手の話を一生懸命聴いて受け入れる」ことは、あくまで手段であって、目的ではありません。A課長に足りないのは、相手と信頼関係を構築するための「傾聴スキル」だったのです。

 そうした傾聴スキルを身につけた人こそが、真の「コミュニケーション能力が高い」人と言えるのです。

 そんなA課長がすぐに着手できるのは、田中さんと日々やっている営業報告における会話です。

 いつも通りに武勇伝を交えて話をしてしまうと、「また始まったよ…」と思われるだけ。それでは、言いたいことや思いが伝わりません。

 部下が、こう思ってしまうのには、大きく二つの理由があります。一つは、「それは課長の話であって、自分には当てはまらない」と思わせてしまうこと。そしてもう一つは、次の予定のことが気になり、「この話、一体いつ終わるのだろう」と考えてしまって、話が頭に入ってこないのです。

 この二つの理由から、A課長がよかれと思ってしているアドバイスも田中さんには全く響かず、むしろ苦痛と不安を与えるだけだったのです。