経済産業省原子力安全・保安院が1月18日、関西電力が提出した大飯原子力発電所3、4号機(福井県おおい町)の耐性調査(ストレステスト)について、「妥当」とする審査書の素案を提示した。ストレステストは電力7社から14基分が提出されているが、初めて判断が示されたことで原発再稼働への一歩を踏み出したことになる。

 再稼働は、①電力各社によるストレステストの報告書提出②保安院による妥当性審査③国際原子力機関(IAEA)、原子力安全委員会による保安院判断の評価④地元自治体の了承⑤首相と3閣僚による再稼働の可否判断──という手順で実施される。すでにIAEAの調査団が来日、31日に検証結果を公表する手はずになっている。

 だが、当然ではあるが、再稼働の道のりは甘くない。この日、素案が示された専門家の意見聴取会には反原発を訴える市民団体が詰めかけ、3時間半にわたり中断。枝野幸男経済産業相が会見で「再稼働を急ぐつもりはない」と釈明する事態となった。

 ただ、その言葉とは裏腹に、政府の対応に焦りが見え隠れするのも事実だ。枝野経産相は23日には、2月上旬にも保安院の審査結果を地元に説明すると言及。保安院の審査結果は「素案」段階のため、まだ手続きの①しか踏んでいないにもかかわらず、すでに④までをも見越していることになる。保安院幹部や地元の福井県も「どういった説明会かは知らされていない」と困惑顔だ。

 もちろん焦りには理由がある。全国に54基ある原発はすでに51基が停止した。このままでは4月下旬の泊原発3号機を最後に、原発はすべてが停止することになる。それまでに再稼働の道筋をつけるためには、「大飯原発の“攻略”が不可欠」(保安院関係者)なのだ。

 大飯原発のある福井県はプルトニウム燃料を用いたプルサーマル計画で1980年代から全国に先立ち推進を表明するなど、「原子力行政で他の県を先導してきた」(福井県幹部)との自負がある。政府内では、地元感情が比較的穏やかな「伊方原発3号機が(再稼働の)本命」(保安院幹部)との期待もあるが、電力業界では「現状では大飯がある福井が動かないと、全国が動き出すことはない」(業界関係者)との見方が支配的だ。

 このため、政府は最短シナリオとして、福井県で2月下旬に開催予定の県議会で了承を取り、西川一誠知事の同意に結び付ける──に望みを託す。経産相が言及した住民向けの説明会は、県議会で紛糾しないための下準備に見える。

 とはいえ、地元同意は難航が必至だ。西川知事らは「ストレステストでは不十分で、新たな安全基準が必要」と繰り返し発言しているが、保安院が作成に動いている気配はない。そもそも「妥当」と示された審査書案も「中央制御室の津波対策に問題がある」(地元議員)との声もあり、すんなりと政府の思惑どおり進む可能性は低い。

 原発の全停止は秒読み段階に入っている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 森川 潤)

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