マウントを取りたがる
上司の心に潜む闇

 そのクライアントは会社にとって「最重要」に位置するものの、コミュニケーションがかなり官僚的で難しく、部長も課長も関わるのを避けて、体よく彼女に押し付けた相手だったのだ。しかし彼女は持ち前のコミュニケーション力とマメな対応で相手の信頼を得た。

 相手がようやく胸襟を開いてくれ、下手に出て頼み事をしてくるようになった途端、自分が仕切りだしたのだ。しかも、指示内容はデタラメだ。

 実はこういう上司は思いのほか多い。筆者自身にも経験がある。話していることの辻褄が合わなかったり、トンチンカンな指示を出したりする。そのくせ、必ず仕切りたがる。

 ほとんどの場合、上司のこういうナンセンスな言動の原因は、その上司個人にある。このタイプは、権力を持つことを好む。そして権力を手放すことを非常に嫌がる。最近のネット用語でいえば「マウントを取りたがる」のである。

 マウントを取るというのは、もともと霊長類学の用語で上位のサルが下位のサルの背後から上に乗りかかる「マウンティング」と呼ばれる行動からきている。霊長類学では、必ず上位のサルがマウンティングするため、マウンティングは上下関係の確認行動の意味があるといわれている。

 先に挙げた上司は、自分が上位にいることを確認したいがために、自分が仕切り、嘱託の女性には権限を与えないように振る舞う。重要なクライアントが自分の頭越しに彼女にものを頼み、彼女が自身の裁量で意思決定するということは、その上司にとって「自分が上位でいる」という認識を脅かすのだ。

 この動機は霊長類の本質的なものなので、基本的には誰にでもあるものだ。特に男性ならば、人より優位に立ちたい、人より権力を持ちたいという動機はかなり強い。

 だが、サルと違って厄介なのは、この手の上司は、自分の本当の動機に気づいていないか、気づいていてもあえて無意識に押し込もうと隠していることが多いということだ。人間は自分の欲求に無自覚であると、逆にその欲求が強烈な形で出てしまうものだ。だから、部下が正論で真っ向から反論しても、かえって意地を張ったり、権力を使ってますますひどいことをする可能性が高い。