麻倉怜士のハイレゾ

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。1月ぶんの優秀録音をお届けしています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

『BIG BAND SOUND ~甦るビッグバンドステージ~』
角田健一ビッグバンド

特薦ロゴ

 優秀ハイレゾで優秀ハイファイなビックバンドサウンド。オーディオ・リファレンスの定番、角田健一バンド作品の最新リリースだ。楽器の数が多い重奏的、重層的なバンドサウンドながら、個々の楽器のフューチャー感も高密度で、高濃度。バンド全体としてのマスな音と、パートと個々の楽器の描きの明確さが両立し、ビックな音の絢爛感とハイファイなクリヤーさが同居するのが、本録音の美質だ。マクロとミクロのどちらも極めて高い次元にある。個々のプレーヤーのテクニックの高さには舌を巻くほど。3曲目「オール・オブ・ミー」のベースのスケールの偉容さに感動。

 2010年録音(同年の日本プロ音楽録音賞 最優秀録音賞受賞)だが、最新的な香りがする。角田健一ビックバンドはかつてSACDで一世を風靡したが、リニアPCM・96kHz/24bitのサウンドは、剛直でノリの良い演奏の迫力と魅力を余すところなく伝えている。

FLAC:96kHz/24bit
ワーナーミュージック・ジャパン、e-onkyo music

『チューリップ・ガーデン』
TULIP

特薦ロゴ

 かつてクリプトンのハイレゾサイト、HQM Storeで配信されていたハイレゾだ。音源は1977年に発売されたチューリップ初のオリジナルベストアルバム。 デビュー曲から12枚目の「ブルー・スカイ」までのAB面を交互に並べ、全24曲を収めた。HQM Storeが終了になり、貴重な音源が聴けなくなっていたが、今回、e-onkyo musicへの移籍が成り、わが国のポップス史でも重要な音源に再度アクセス可能になったことを喜びたい。

 オリジナルアナログマスターテープから192kHz/24bitでのリマスタリングを経てデジタル音源化しているが、この過程では相当なこだわりが注入されている。本作品の音の良さ、というか「アナログ的なフレーバー」はHQM時代から定評があった。アナログからトランスファーにおいて、出来る限りアナログ的な質感を残すことを信念にしたと当時言っていた。最新録音に比較すると、リードボーカルや個々の楽器の音像がいまひとつ曖昧だが、逆に、ひとつの音響的作品としてまとまりが良く、サウンド的な融合感は、他に例がないほどの素晴らしさ。アナログの香りが濃密なハイレゾだ。リードボーカルとコーラスのバランスも好適だ。

FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit
シンコーミュージック、e-onkyo music

『マーラー:交響曲第5番、亡き児をしのぶ歌』
クリスタ・ルートヴィヒ、 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ヘルベルト・フォン・カラヤン

特薦ロゴ

 出ました、超耽美的なカラヤン・マーラー! 冒頭からケレン味たっぷりに、絢爛に鳴らす。これほどマシュマロ的でスウィートなマラ5は空前絶後だろう。以前に、マラ9でカラヤンは甘美だと書いたが、マラ5はさらに甘く、蠱惑(こわく)的。

 ベルリン・フィルもベートーヴェンやブラームスで聴かせる剛毅で、大器量的なところはまったくなく、ロマンチックでメローな演出に努めている。このスウィーティな味は、DSD2.8MHzであることも大いに効いていよう。指揮者の音楽的解釈から、オーケストラの音色、そしてメディアの音色までが、すべて甘さを指向しているのである。実に個性的、実に魅力的な、身悶えちゃうようなマーラーだ。1973年、ベルリン、イエス・キリスト教会で録音。

DSF:2.8MHz/1bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music

『ラ・カンパネッラ』
須関裕子

特薦ロゴ

 桐朋女子高等学校音楽科2年在学中、16歳でチェルニー=ステファンスカ国際ピアノコンクール第1位を獲得した須関裕子のデビュー作。昨年、寺下真理子のリサイタルで、伴奏を務めていた時の好演が記憶に残っている。

 さすがは音にこだわるマイスターミュージックの制作だ。音場と音像のバランスがとてもよく、眼前にあるような臨場感で聴ける。第1曲「ラ・カンパネラ」は、音色的な華麗さと、ハイレゾ的なヌケの良さ、高解像感が素晴らしいが、加えて、それらがいかにもな人工色ではなく、とてもナチュラルであること、音場は深みがあるのに、鍵盤感や音の立ち上がり/下がりが明瞭で、音像が適切なサイズにまとまっていることなど、録音エンジニアの仕事にセンスの良さを感じる。須賀のピアノはレガートの優しさが心地良い。

FLAC:96kHz/24bit、192kHz/24bit
WAV:96kHz/24bit、192kHz/24bit、DSF:5.6MHz/1bit
マイスターミュージック、e-onkyo music

『シューマン:交響曲全集』
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ヘルベルト・フォン・カラヤン

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 カラヤンがスタジオでセッション録音した唯一のシューマンの交響曲全集。さすが豊潤演出のカラヤンらしく、実に豪華な響きだ。第1番「春」の冒頭がまるでブルックナーのように大器量に始まり、フレーズごとに濃密な表情を付与していく。

 まさにカラヤン節全開のこってりシューマン。

 日本の春のごとく、ゆっくりとグラテーションを持って冬から春に変わるのではなく、ドイツの春のように五月に入って突然、すべての花が同時に咲き始め、あらゆる花の香りが濃密にミックスされるという衝撃的な春だ。第3番「ライン」も急流に次ぐ急流で、船は大揺れだ。1971年、ベルリン、イエス・キリスト教会で録音。

DSF:2.8MHz/1bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music

『Debussy: Preludes II』
マウリツィオ・ポリーニ

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 今年はドビュッシー没後100年記念年だ。今後、ドビュシー関連の新録がぞくぞくと登場する予定だが、その先駆けが本アルバム。最新作だけあり、目が覚めるような超優秀録音だ。第1曲「霧」の低弦と高弦で同時に弾く旋律部分の音色的な分離と同時に、融合度も非常に高いことには、感動する。

 ドビュシーの細やかな非和声的な独特の響きの世界をハイレゾはクリヤーに、感情豊かに描写する。ドビュシーの和声は、オーセンティックな周波数の倍音的整合性を無視した、独特の響きの不思議世界。ポリーニはそのレゾナンスの綾と記号性を非常に明晰に聴かせ、現代のハイレゾ録音がそれを見事に捉えている。

FLAC:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music

『Holly』
Holly Cole

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 ホリー・コールは私のオーディオ評論にはなくてはならない歌手だ。CD「『Don't Smoke In The Bed』の第1曲「アイ・キャン・シー・クリヤリー・ナウ」は、評論活動には必携。この曲でこの数十年、どれほどの機器を聴き、チェックしたか、計り知れない。

 そんなホリー・コールの新作『NIGHT』がDSDとPCMのハイレゾで登場。

 DSDを聴く。1曲目I'm Beginning to See the Lightは、DSDらしく丁寧で、人肌感覚で、グラテーションが豊かなサウンド。冒頭のトロンボーンの音からしてヒューマンタッチにしびれる。輪郭の鋭さで聴かせるのではなく、内実の階調的な充実が伝わってくる。ボーカルは突き放すような、けだるさの感情表現とニュアンスのテクニックがホリー・コールらしい。

 音像は、適切なマウス(口の)サイズで、正確なセンター定位。バックとのバランスも良い。カナダのレーベル2xHDの現代的で、麗しい音作りにはいつも感心する。もともとは48kHz/24bitのデジタル音源をいったんアナログに変換し、次にデジタルに換え352kHz/24bit(DXD)でマスタリング。それをDSD2.8MHzに書き出した音源だ。複雑なプロセスを辿っていることが認識されない実にクリアなもの。

FLAC:96kHz/24bit、192kHz/24bit
WAV:96kHz/24bit、192kHz/24bit
DSF:2.8MHz/1bit、5.6MHz/1bit、11.2MHz/1bit
2xHD、e-onkyo music

『For 2 Akis』
Shinya Fukumori Trio

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 ミュンヘンを拠点に、ヨーロッパ各地で活動する日本人ドラマー、福盛進也のデビュー・アルバム。それも天下のECMからの発進だ。世界最高の透明度を誇るシベリアのバイカル湖のように、世界最高に透明なサウンドと称されるECM。

 本作も、圧倒的な透明度と細部までの磨き込みの鋭さは、やはり現代屈指だ。ピアノ、サックス、ドラムス(フューチャーアーチストの福森)のトリオだが、各楽器の音像的、音質的な立ち方のシャープなことには刮目だ。3曲目「Ai San San=愛燦燦」の音が透明に重なる部分は、まさにECMの有り難み。ECMはハイレゾで、よりECM的(?)になる。

FLAC:88.2kHz/24bit
ECM、e-onkyo music

『Dreamin'』
Hanah Spring

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 和製SOUL歌手、Hanah Spring(ハナスプリング)の最新ハイレゾ。1曲目、Dreamin'(living in a dream)は、ボーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムスというコンパクトな編成だが、各要素の音像が大きく、明瞭に輪郭を確保している。音の進行力が強く、音が手前に向かってどび出してくる飛翔力もリッチだ。

 2曲目、Diana(I don't wanna stop)はベースとドラムスのひきずるような重量感も上手く表現されている。11曲目「君の居る場所」のボーカルは、フレージングが明確で、感情が豊か。音の粒子が大きく、その重量感が本アルバムの音調的な特徴だ。

FLAC:48kHz/24bit
WAV:48kHz/24bit
TOKYO RECORDS、e-onkyo music

『サクラ』
絢香

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 絢香がライブのみで歌っていた卒業ソング「サクラ」が、ファンの声に応えてシングル化された。そのハイレゾバージョンで、しっとりと濃密な音だ。いわゆるJ-POP的な中域強調型ではなく、ハイファイ用途にも十分使える、音調的なバランスの佳さだ。音的なボーカルの表情がとてもいい。過度な輪郭強調や、テンション過多ではないが、でもサビの盛り上がりでは、音数の増加と共に感情もストレートに増える。曲の良さと録音の良さが高い次元でバランスしている。

FLAC:96kHz/24bit
WAV:96kHz/24bit
A stAtion、e-onkyo music