頭がいい人=自分に自信を持っている人

どの会社も採用しないような人を雇って、その人をめっちゃ育て上げる方法があるんです。<br />【佐々木圭一×坪田信貴】(前編)<br />坪田信貴(つぼた・のぶたか)坪田塾 塾長。これまでに1300人以上の子どもたちを個別指導し、心理学を駆使した学習法により、多くの生徒の偏差値を短期間で急激に上げることで定評がある。「地頭が悪い子などいない。ただ、学習進度が遅れているだけ。なので、遅れた地点からやり直せば、低偏差値の子でも1~2年で有名大学、難関大学への合格は可能となる」という信念のもと、学生の学力の全体的な底上げを目指す

坪田 僕、「結局これをやれば儲かる」と思っているものが2つあるんです。1つは、すごいビジネスモデルを発見すること。

佐々木 例えば、Amazonみたいな他がやっていないビジネスモデルですね。

坪田 そうです。そしてもう1つは、どの会社も採用しないような人を雇って、その人をめっちゃ育て上げる、を繰り返すこと。

佐々木 どういうことですか?

坪田 有名大学を出て、大手企業で働いている人って、人件費が高いじゃないですか。年収2000万円の人は仕事ができるかもしれないけれど、その人に1億円稼いでもらうよりも、むしろ時給数百円で働いている人の生産性を上げて1億円稼げるようになってもらうとしたら、当たり前ですけれど後者のほうがめちゃめちゃ儲かるわけです。

佐々木 ああ、なるほど。

坪田 吉本興業って、ある意味これを実践されているんですよ。関西だと、子どもがいたずらすると親に「そんなんするんやったら吉本入れるで」って言われるらしいんですよ。そして、実際に勉強がうまくいかなかった子たちが、夢を追って吉本に来るみたいなんですよね。その中からスターダムにのし上がっていった人も何人もいる。そういう場を設けることで結果的に儲けている会社だと思うんです。なのに、他の会社はみんな「いい人」を採用しようとしている。

佐々木 どうしてもそう思ってしまいますよね。初めから生産性を上げてくれそうな人を採用したくなりますよ。

坪田 わかります。でもそれだとコストが高くなってしまうから、思うような成果を上げてくれなかったら、どうしても「期待外れだね」「うちには合わないね」などという評価をしてしまう。むしろ、そんなにできない人をできるようにさせたほうが、社会全体で見てもいいと思うんです。その人たちの収入がポンと上がれば、税金も増えるわけだし、高所得者層の人たちも負担が減るわけだから。

佐々木 でも、時給数百円の人が、年収1000万円以上の人と同じパフォーマンスを上げるのは、一般的には無理と思われますよね。それができるということなんですか?

坪田 全然できると思います。だって、人間そんなに変わらなくないですか?…よく「あの人頭がいいね」って言うけれど、頭がいい人って、自分のことを頭がいいと思っている人だと考えたんです。言い換えると、「自分に自信を持っている人」ということ。佐々木さんもそうですが、自己肯定感、自己効力感を持っているからこそ「まだまだ足りない」と思ってもっと伸びようと努力されている。でも多くの人は、学生時代に親や先生に「ダメだ」「バカだ」と言われ続けている。…僕は学校の成績って本当にどうでもいいと思っているんですが、それによってなんだかんだ言って順位を付けられてしまっているのが現実だから、下位の人はリベンジしたほうがいいと思っています。

佐々木 リベンジですか。

坪田 「できない」と言われている人の一番の問題は、「自分たちはそんなものだ」と思ってしまっていることだと思うんです。そのトラウマをパッと跳ね返すことができれば、自信になるはず。「こういうふうにすればできるんじゃない?」と教え、やってみたらできた、みたいな。そうすれば数百円の時給が2000円、3000円と上がっていく。それを積み上げていけば、組織全体もすごく伸びる。

実は、僕が塾業界に足を踏み入れた理由って、ある意味社会実験だったんです。勉強が全然できない子どもたちは、本当にバカなのか。教え方によっては伸びるんじゃないかということを検証したかった。そして今までに1000人以上の子どもを見て、統計上で「伸びる」ということがわかりました。僕の指導している生徒のセンター試験の平均点は8割を超えています。8割と言えば、いわゆる旧帝大に合格するレベル。学年ビリだった、みたいな子どもたちがいっぱいいる中での8割です。

佐々木 ……すごい!自分の力で実証されたのですね!

坪田 でもね、次に何を言われたかというと、「それって先生がカリスマだったんでしょ?」。つまり、あなたが特殊だったからできたんだと。でも、確かにその可能性はあると思って、講師を採用する際に、他の塾だったら絶対に採らないような人を採用しようと決めたんです。面接中に「絶対不採用だ!」と思った瞬間に採用を決めるという(笑)。これは本人にも言っていることで、みんな自覚してくれています。

佐々木 すごいなー!なかなかできない!

坪田 僕の右腕にナカノってのがいるんですが、彼もそうでした。36歳で転職してきたのですが、それまでは契約社員として英会話学校の先生をしていたと。そしてうちの面接を受ける半年前ぐらいに辞めている。「半年間何をしていたの?」と聞くと、自分を見つめ直していたっていうんです。36歳で契約社員で、半年間何もせずに自分を見つめ直すって、ちょっといろいろ意味がわからないじゃないですか(笑)。そして、僕が空手をしているという話をしたら、そこからずっと空手の会話になって。面接試験なのに、ひたすら空手の技の話をしていて、「この人すさまじいな……採用」と(笑)。で、「いつから働けますか?」と聞いたのですが……普通、いつって想定します?

佐々木 現在無職なんだし、「今日からでも来ます」って言いますよね。

坪田 ですよね!なのに彼は「2ヵ月待ってもらっていいですか?謎のスピリチュアルなセミナーに参加したくて、来月フロリダに行くんです」って(笑)。

佐々木 もう笑うしかないですね。

坪田 入社後もいろいろ笑わせてくれました。ある時、講師を10人集めて「教室責任者になりたい人はいますか?」と聞いたら、9人が手を挙げたのですが、彼だけ手を挙げなかったんです。その瞬間「この人をリーダーにしよう」と思いましたがね(笑)。そんな彼が、今や僕の大切な右腕。『ビリギャル』主人公のさやかちゃんの妹が上智大学に入ったのですが、彼女の指導をしたのは彼だし、学年で100番台の成績の子を東大に進学させたりと、カリスマ講師でもあるんです。

佐々木 そんなことがあるんですね……そしてその秘訣が『バクノビ』に書かれているんですね。

坪田 その通りです。話が長くてすみません(笑)。