マネジャー職の撤廃は若干の不都合を伴う

 モーニング・スターは、マネジャーを抱えないことでコストや弊害を軽減しているが、逆に不都合もある。

マネジャーをつくらない会社の短所
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 第1に、だれもがこの流儀に適するわけではない。これは能力ではなく適応の問題である。階層の多い組織で何年も働いていた人は、なかなか適応できない場合が多い。

 ルーファーの見たところ、新たに入社した人が自主管理の下で十分に実力を発揮するまでには、平均で1年以上を要するという。

 こうした事情から採用には余計に時間がかかり、手順も込み入ったものになる。会社の規模が小さかった当時は、ルーファーがすべての応募者に半日をかけて面接していた。しかも、たいていは相手の自宅にまで足を運んでいた。会話のほとんどは、モーニング・スターの哲学と応募者の期待内容が一致するかどうかに主眼を置いていた。

 最近では、応募者にまず2時間をかけて自主管理の説明を施したうえ、10~12人ほどの従業員が面接する。ここまでしても、適性を見抜けるとは限らない。ポール・グリーン・ジュニアによると、社会人経験の長い人物を採用した場合、およそ半数は思うままに振る舞えない状況への適応に苦しみ、2年以内に退社するという。

 第2に、互いの目配りによってみんなに責任を果たさせる仕組みも、難しさをはらんでいる。トラブルメーカーや成果を上げない従業員がいる場合、階層型の組織では上司が対処に当たる。

 しかしモーニング・スターでは、方針や規範を破った者を問い質して、品質、効率、チームワークを守るのは全員の責任とされている。もし従業員たちがこの責任を果たさず、必要な時に厳しい態度を取るのを怠ったなら、自主管理はたちどころに、全員で申し合わせたようにほどほどの成果で妥協する仕組みに成り下がってしまう。

 この危険については社内研修で正面から取り上げ、「みんなが勇気を奮い起さない限り、同僚が互いを律するやり方は成り立たない」と強調している。

 第3として、成長が妨げられるという不都合もある。モーニング・スターは業界平均を上回るペースで成長を続けているが、ルーファーや従業員たちは社風が希薄になるのを恐れている。他社の買収に消極的なのも、この点を心配しているからだ。事業拡大の道を探ってはきたが、これまでのところ、マネジメント上の強みを犠牲にしてまでさらなる高成長を目指すのは避けている。

 各自の進歩を見極めるのも難しい。たいていの企業には昇進の階段があり、それが目安となる。ところがモーニング・スターには階層がないため、同業他社の人との比較で自分たちの進歩を測るのが難しいおそれがある。会社での地位をアピールできないことは、転職を目指す際には不利に働きかねない。