自主管理の長所
モーニング・スターには他社での勤務経験を持つ従業員も少なくない。彼らに自主管理の長所を尋ねると、身を乗り出すようにしてとうとうと語ってくれる。具体的に挙がるのは、以下の諸点である。
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主体性が強まる
モーニング・スターでは簡単な方法で従業員の主体性を引き出している。つまり、役割を幅広く定め、各自に行動の権限を与え、仲間に力添えしたら忘れずにほめ称えるのだ。
ある工場技術者に「皆さんがだれからも言われなくても同僚に手を差し伸べるのは、なぜですか」と尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。「ここでは評判を糧に組織が動いています。別の部門に対して有益なアドバイスをすれば、評判が上がりますよね」
専門性が深まる
自主管理を実践すると技能向上への意欲が生まれる。モーニング・スターでは、高い専門性を備えた人もマネジャーや上級スタッフになるのではなく、現場の業務に携わる。
一例として、工場の包装ラインで無菌容器に中身を詰める作業に従事するのは、微生物学への造詣が深い人々である。品質エキスパートのスコット・マーノックによれば、「この会社ではだれもが自分の仕事の出来栄えに責任を負っています」ということだ。「自負のほどは半端ではありません。それに、失敗しても尻拭いしてくれる上司はいないですから」
融通が利く
モーニング・スターのマネジメント・モデルの下では、迅速性と融通性が発揮されやすい。ルーファーが例えを用いながら説明してくれた。
「雲ができたり消えたりするのは、大気の状態、温度、湿度に応じて水分子が凝結と蒸発を繰り返すからですよね。組織も同じはずです。外からどんな力が加わるかによって、体制を整えたり、壊したりする必要があるのです。みんなに行動の自由を与えておけば、どんな力が働いているかを察知して、その時々の実情にいちばん合った行動を取るでしょう」
ポール・グリーン・ジュニアによると、同僚たちは使命をよりよく果たす方法を模索するなかで、互いに力を合わせて毎年何百もの変革を起こそうと立ち上がるという。
協調性が高まる
階層を取り払うと、組織の弊害をかなりの程度まで除去できる。昇進競争があると各人の成果志向は強まるが、限られた昇進枠を争うせいで社内政治が横行して敵対意識がはびこる。他方、完全に水平(フラット)な組織では、上司へのゴマすりも同僚同士の追い落としもない。
「フォーチュン500」企業2社での勤務経験を持つポール・ターペルクは、昇進のない会社の美点をこう語る。「中傷の類は少ないですよ。昇進という狭き門をめぐってしのぎを削るわけではないですから。最高の成果を上げたり、同僚を助けたりすることに全力を注げばよいわけです」
よりよい判断ができる
大多数の組織では、重要な判断は事業分析の訓練を積んだ幹部が担うのが通例である。彼らは豊富なデータと洗練された分析力を持っているが、文脈、つまり現場の実情については理解していない。このような理由から、上層部に受けのよい判断は往々にして、現場の従業員にしてみれば見当違いもはなはだしいのだ。
モーニング・スターでは、上層部が判断を下すのではなく、現場の人々に専門性を備えさせている。たとえば、従業員のおよそ半数はサプライヤーとの交渉法についての研修を終えている。財務分析の研修を受けた人も多い。自分で考えて実行するのだから、タイミングを逃さずに賢明な判断を下せるはずである。
忠誠心が厚くなる
モーニング・スターから競合他社への転職はほとんどないが、逆の事例はたびたび起きている。そのうえ、臨時雇いまでもが献身的に仕事をする。各加工工場はトマトの収穫期に合わせて毎夏、合計800人を超える季節労働者を雇う。翌年の継続率は9割に達し、会社では彼らに自主管理の原則についての研修を施している。外部の研究者が先頃これら臨時雇いの権限や当事者意識を調べたところ、他社の上級幹部並みの高水準だったという。
なお、マネジャー職を設けないやり方はコスト面でも有利である。浮いたコストの一部はフルタイム従業員に配分され、彼らは他社の同等職よりも10~15%高い報酬を得ている。マネジャーを抱える負担を避けることで、事業成長への投資を増やせるという利点も生まれる。