昨年から今年にかけ、日本を代表する製造業で次々と不正が発覚した。一連の不正報道を通じて、「日本企業の現場力は低下した」というイメージが世間に広まってしまった観がある。しかし、東京大学大学院経済学研究科の藤本隆宏教授は、そうした言説を一刀両断する。日本の「現場力」は今も昔も変わっていないと言うのだ。藤本教授が語る、日本の現場が持つ真の強さ、そしてこれから向かうべき方向とは。(まとめ/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
検査不正が相次ぐ日本企業で
「現場力」は本当に低下しているか
日産自動車やスバルでの無資格者による完成車検査、神戸製鋼所や東レ・三菱マテリアルの子会社における製品データ改ざんなど、日本企業の不正が相次いで発覚した。一連の不正報道でさかんに言われたのが、「日本企業の現場力が低下しているのではないか」ということだ。
その考え方は、論理的にも実証的にも誤りだと言わざるを得ない。検査不正は断じて許されないが、それと品質の現場力(工程能力)の高低は、別々の論理で説明されるべき話であり、両者を混同すべきではない。また、日本の産業全体の現場力が長期低落傾向にあることを示す客観的データも見当たらない。
一口に現場と言っても、検査部門(品質管理部門)と製造部門(品質つくり込み部門)の役割の違いを区別した正確な議論が必要だ。今回出てきた不正は検査部門の逸脱行為だが、それと製造部門の「品質つくり込み能力」の間に、直接の因果関係はない。そして、品質に関する「現場力」とは、基本的には後者の「つくり込み能力」を指すのである。
こうした品質管理の基本的な仕組みを考えず、「検査不正イコール品質不良であり、それは現場力の低下を意味する」とするのは、論理的な推論とは言えない。そもそも「不良」「不正」「現場力」とは何を指すのか、正確な議論が必要だ。
一般に物財の寸法や材質にはばらつきがある。それらが設計目標値からある許容範囲を超えて大きく外れると、その品物は機能不全を起こしやすくなり、社外に出荷され使用される段階において、故障や事故の原因となる。これを「外部不良」あるいは品質不良と言う。
一方、そうした品質不良を防止するため、製造企業は社内で検査を行い、その検査基準すなわち「公差」を、顧客などの同意も得て事前に契約や法規で決め、その基準から外れる品物は検査で不合格とし、出荷しないものと約束する。検査で公差を外れる不合格品を「内部不良」というが、検査が完璧ならそれは市場に流出しないので、顧客や社会にとっての品質不良にはならない。その場合、内部不良は、コストや納期に影響するが、品質には悪影響を与えない。