「あらゆる組織にとってトップマネジメントの機能は不可欠である。しかし、トップマネジメントが行なうべき具体的な仕事は、組織によって異なる。仕事の種類は同じでも、具体的な内容は個々の組織それぞれに特有である。それぞれの組織の目的、目標、戦略、活動によって異なる」(ドラッカー名著集(15)『マネジメント―課題、責任、実践』[下])
ドラッカーは、こう言う。「問題はトップマネジメントとは何かではない。組織の成功と存続に致命的に重要な意味を持ち、かつトップマネジメントだけが行ないうる仕事は何かである」。
致命的に重要でありながら、トップだけが行なえることとは何か。トップであるということは、トップの地位にあるということである。トップの地位にあれば、全体が見える。行く先が見える。トップに特別の能力があるからではない。ほとんど誰でも、そこに座れば見えてくるというものがある。
だからこそトップは、組織全体の方向づけができる。緊急時に指示することができる。しかもトップには、接触すべき諸々の関係者がいる。重要顧客との関係がある。政府当局との関係がある。メディアや地域との関係がある。おまけに諸々のセレモニーまである。とても体一つでは身が持たない。
事業部長は、事業部の全体が見える。事業部の行く先が見える。したがって、事業部の方向づけができる。しかし、いかに優秀な事業部長といえども、会社全体について、これらを行なうことはできない。本人の能力や資質の問題ではない。座っている場所の問題である。
ところが、それらトップだけが行なえる仕事のほとんどは、連日取り組んでいかなければならないという性格のものではない。そこで、ドラッカーが引き出す結論が、チームとしてのトップマネジメントの編成である。
「トップマネジメントの役割が、なすべきこととしては常に存在していながら、仕事としては常に存在しているわけではないという事実と、それが多様な能力と資質を要求しているという事実とが、トップマネジメントの役割のすべてを複数の人間に割り当てることを必須にする。さもなければ、致命的に重要な仕事が放置されたままとなる」(『マネジメント』[下])