大量注文が当たり前の世界で
ばねを1個単位で加工・販売
日本において、ばねの需要は自動車業界が6割、家電業界が2割を占めるといわれている。数十万個というロットで発注されることも珍しくない。ばねは産業のコメのような存在である。
浜松市に本社を置く沢根スプリングは、こうしたばね業界の常識を打ち壊した。万単位のロットが当たり前の中で、1個単位で加工・販売する小口取引を始めたのだ。
「効率的に同じものを大量に毎日、作り続け、価格競争の中でもがくことが幸せでしょうか。従業員にとってこんなつまらないことはない。だから、スピードとサービスの付加価値にこだわった経営に切り替えたのです。面倒で非効率でも、お客様に時間という価値を提供したい。誰もが同じことを効率的にやる時代は終わりました」と、同社の沢根孝佳社長(63歳)は語る。
同社は子会社のサミニを使って「ストックスプリング」というカタログ・ネットによる通信販売事業を行っている。取り扱うばねは5000種、1個から注文を受け、夕方5時までの注文は即日発送する。加工を必要とするオーダー品も最短2日目に発送する。通販の顧客数は全国2万9000社にのぼる。「世界最速工場を目指す」が同社の合い言葉だ。
1993年には中国江蘇省無錫市に合弁会社を設立、現在は国有自動車メーカーの第一汽車との合弁でエンジン用の高機能ばねを生産している。製品の90%以上は中国の自動車メーカー向けだ。従業員は105人で、売り上げは約14億円(1元16.7円換算)と急成長中だ。
2010年からは海外向けのインターネット販売も開始した。海外向けは、通常のばねだけでなく、マイクロコイルなど医療用のばねやコイルの販売を中心に展開している。
「当社は30マイクロメートル(ミクロン)から1ミリほどの極細の線材を長く巻く技術を得意としており、それを活かして医療用コイルを作りました。アメリカやドイツの展示会に出展し、知名度を高めた上でネットによる販売で広げていきたい。製品が小さいものなので、国際宅配便で発送できますから、いわば現地進出しない海外展開を考えています」と沢根社長。