『失敗の本質』が注目される理由
日本人と日本的組織、5つの弱点

 では、なぜ今、『失敗の本質』が注目されているのでしょうか?

 その理由は約70年前に日本軍が敗北した大東亜戦争末期と、現在の日本が直面する問題、日本的組織の病状があまりにも似ているからでしょう。多くの日本人が、その不気味な類似点に驚き、不安さえ感じているのではないでしょうか。

 以下、大東亜戦争末期の日本軍と現代日本に共通する5つの弱点を挙げてみましょう。

(1)平時には順調でも、危機には極めて弱い

 技術立国と自負していた日本ですが、原発事故の対応では世界中から不安の目を向けられ、危機管理能力のなさを厳しく指摘されました。

 また、日本はロボット王国と言われながらも、原発の事故現場へ最初に投入されたのは米国iRobot社製でした。日本では「原発事故の発生」を想定していなかったため、原発対応用のロボットが存在しませんでした。そのため災害救助用ロボットを投入するには、急遽装備を追加することが必要となったからです。(2011年6月に投入された日本製ロボットのQuinceは、誤った階段の幅を通知されたことで階段踊り場を旋回できないという初歩的なミスを経験しますが、その後2号・3号建屋の各種測定や、2号建屋の5階での測定・撮影に成功するなど多くの活躍をしています。※2012.4.24に、読者より日本製ロボットの投入経緯と活動・活躍についてご指摘を頂き、訂正させていただきました。ご指摘ありがとうございました)

 日本軍も自ら立てた作戦が予定通り実施できた時期は順調でした。ところが、計画が少しでも狂うと途端に弱さを露呈してしまったのです。

(2)上から下へと「一方通行」の権威主義

 どれだけ現場最前線の士気と能力が高くても、戦略や作戦を決める上層部が愚かな判断を続ければ敗北します。上層部が現場の声をまったく活かすことなく失敗を繰り返す姿は、日本軍と現代日本の組織にも共通しています。

(3)リスク管理ができず、人災として被害を拡大させる

 企業の不祥事の多くは「問題の芽を放置した」ことで悲劇を迎えます。日本海軍の戦闘機「零戦」には防弾装備がなく、空母も被弾するとすぐに炎上してしまいました。あの時代も現代も、日本人のリスク管理思想には重大な欠陥があるのではないでしょうか。

(4)戦局の「後半戦」に弱い日本人の思考習慣

 大東亜戦争でも、日本軍は戦局の前半は快進撃でしたが、後半では劣勢を挽回できず、雪崩を打って敗北を重ねました。戦後経済の前半では「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた日本も、後半戦である1990年代以降は、長期にわたる閉塞感に効果的な打開策を見つけられずにいます。

(5)問題の枠組みを新しい視点から理解できない

 日本を代表する家電メーカーであるソニー、パナソニック、シャープの大幅赤字や、日本唯一のDRAM専業メーカーだったエルピーダメモリが今年2月に会社更生法を申請したニュースなどは皆さんの記憶にも新しいと思います。

 日本企業は「高い技術力では負けていない」と言われますが、企業業績上の敗北は明白です。「技術以外の要素」が勝利に必要なのに、高い技術のみを誇る価値があるのでしょうか。日本軍の世界最大の戦艦「大和」は米軍航空機に撃沈されました。すでに戦艦の巨大さが勝利の要因ではなくなっていたからでしょう。