高等教育無償化で議論が紛糾
「無料案」が孕む2つの課題
昨年の衆議院議員選挙で自民党が掲げた公約に沿って行われている高等教育、つまり大学などの授業料の経済負担軽減についての検討が、具体案になった段階で新たな議論を呼び始めている。
政府は昨年末、消費税の増税分を財源として、低所得層の学生の授業料を無償化する方針を閣議決定した。公表されている案の骨子は、住民税非課税世帯に対して大学の入学金や授業料を免除するという「無償化案」である。
これに対して、自民党の教育再生実行本部が別案を政府に対して提案した。その案とは、学生の在学中は授業料を国が立て替え、卒業後に所得に応じて返す「出世払い」制度である。わかりやすく言えば、選挙の公約で突然決まった政府の方針に対し、それまで同じ問題を検討してきた自民党の教育再生関係者が物言いをつけた形である。
2つの案が出てきた背景には、政治家同士の利害や駆け引きもあるのだとは思うが、客観的に見てこの「無償化案」と「出世払い案」はどちらが優れているのだろうか。このような比較は経営コンサルタントが一番得意とするところだろうが、今回はそうした観点から、筆者独自の尺度でこの問題を評価してみたい。
消費者にとって「無料」と「後払い」だったら、「そりゃあ、無料のほうがいい」と思うだろうが、実はこの無償化案、大きな課題が2つある。1つは、救済される範囲が狭いというものだ。
閣議決定された無償化案で対象になる住民税非課税世帯だが、年収ラインとしては扶養家族1人の家庭はだいたい200万円、扶養家族が2人の家庭では年収250万円がそのラインとなる。これは国民全体で見れば13%程度に相当するのだが、年金生活をしている高齢者層でその比率が高い。