モノが売れないこの時代に、『社会貢献』が売れている――。
もちろん、社会貢献という名の商品があるわけではなくて、さまざまな社会問題の解決につながるモノやサービスが売れたり、NPOやNGOの活動を支援するチャリティ商品が売れているという意味だが、昨年のリーマン・ショック以降の世界同時大不況の中でも、これらの商品は売り上げを伸ばしている。
社会貢献志向の消費行動を『ソーシャル消費』と呼ぶが、この消費トレンドは、若者とアラフォー女性を中心に、30代男性、そしてシニアを巻き込むメガ・トレンドになりつつある。
残念ながら40代、50代の男性はこの動きから完全に取り残されていて、企業の管理職や役員クラスにはその世代の男性が多いので、このメガ・トレンドを理解できてない企業もまだまだ多い。これでは、せっかくのビジネス・チャンスを潰していることになるので非常に残念だ。
筆者の本業はマーケティングのコンサルティングで、つまり生活者の消費志向を分析するのが仕事なのだが、その経験から言っても、このトレンドは、従来のものとまったく意味合いが違う。
従来の企業活動、すなわちマーケティングとは、基本的に“個人の欲望”をいかに刺激するかがテーマだった。美味しいモノが食べたい、いいクルマに乗りたい、大きなテレビが欲しい、カッコいいスーツが着たい――。そういった欲望を刺激し、肥大させ、消費を拡大させる。時代が変わろうが、新しい理論が出てこようが、基本的なベクトルはこれまでかわらなかった。
しかし、今度の『ソーシャル消費』は違う。個人の欲望より“他人の幸福”のために商品を購入するという、従来のマーケティングの常識からすれば180度真逆の、「コペルニクス的大転換トレンド」なのである。
このトレンドは、すでに世界規模で起こっている。あの経営学の神様マイケル・ポーターまでが、「社会貢献したほうが企業も儲かりますよ」という内容の論文を書き、2006年のマッキンゼー賞を受賞した【注】。欧米の企業経営者はこの論文に衝撃を受け、こぞってCSRを企業戦略に統合するようになったという。その結果、コンサルティング会社では、CSRコンサルタントの数が足りなくて困っているという話も聞く。
日本でもここ2~3年、大学生を中心とした20代の若者、そしてアラフォーの女性を中心に、このトレンドが顕在化してきた。そのことを示す、衝撃的な事実がある。
女子大生も草食系男子も
『社会貢献』には心が動く?
関西一のお嬢様大学・神戸女学院大学の内田樹教授が、自身のブログにこのようなことを書いている。
内田ゼミを希望する学生が掲げる研究テーマについて、これまでは「ファッション」「ブランド」「女子アナ」「美食」など、消費行動に関するものが多かったという。しかし、昨年はそのようなテーマはゼロ。それに代わって登場したのは、「ストリートチルドレン」「麻薬」「売春」「人身売買」「児童虐待」「戦争被害」「テロリズム」「少数民族」といった社会的なテーマばかりが並んだというのだ。