一般的に「アウェー」というのは自分にとって不利な環境のことで、決して望ましいものではない。しかし、これからの時代は自ら「アウェー」に飛び込んでいくことが成長の鍵になるという。「アウェー体験」の重要性を、脳科学者の茂木健一郎氏に聞いた。(清談社 藤野ゆり)
サッカーではなぜ、ホームが
アウェーよりも有利なのか?
サッカーW杯で日本中が沸いた6月。強豪ドイツがグループリーグで敗退するなど番狂わせのドラマがあった一方、今回の開催国であるロシアは、会場にいる地元の人々の大歓声を追い風にして、強豪スペイン相手に勝利をつかんだ。ホーム戦ならではの奇跡とも呼べるゲームだった。
ホーム戦とアウェー戦どちらかを選べ、となったとき、多くのスポーツ選手はホーム戦をチョイスするだろう。一般的にアウェーよりもホームのほうが、本来の力を発揮しやすいと考えられているからだ。だが、そもそも私たちはなぜ、アウェーでは力を発揮できないのか。
「アウェーでは当然、普段より不安や緊張感が高まります。緊張していると、デフォルトモードネットワーク(リラックスしているときに働く神経回路で、ひらめきをもたらすといわれている)の働きが低下し、十分な力を発揮できません。しかしアウェーであっても積極的に何度もトライしていくうちに、緊張しなくなり、やがてリラックスしながら集中できるフロー状態が訪れる。そこに成長の鍵があります」
そう語るのは、『結果を出せる人の脳の習慣』を上梓した脳科学者の茂木健一郎氏。未知の世界で次々と起こる、予測できない変化を楽しんでいる状態こそが、脳を活性化させるには最高の状態なのだという。
「アウェーに強い人は、仕事で結果を残せる人。脳の成長には、ホームだけの環境に満足するのではなく、どこにいても常にアウェーを探す、あるいはアウェーを感じていることが重要です」(茂木氏、以下同)
茂木氏によると、“脳が成長する”とは、脳内の神経細胞ニューロンをつなぐシナプス結合が変化することを指す。しかし、脳内の回路は一度出来上がると安定してしまうため、シナプスを継ぎかえるといっても簡単にはいかない。
「そのためにも、脳に負荷をかける必要があります。うれしいことがあると脳内にドーパミンが放出されるのですが、ドーパミンには直前にやっていたことのシナプス結合を強化する性質があります。初めてのことにチャレンジして成功したときほど喜びが大きく、ドーパミンの放出量も多くなり、その回路がより強化される。つまり脳が成長するわけです」