非常に高額なのに、全国、いや世界中からお客が殺到しているサービスをご存じだろうか?
その名は、クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」(以下、ななつ星)。「世界一の豪華列車」と称され、高額にもかかわらず、2013年の運行開始以来、予約数が定員をはるかに上回る状態が続いている。DX(デラックス)スイート(7号車の最高客室)の過去最高競争率が316倍。「ブランド作りとは世界の王でも断る覚悟」と、そのフェアな抽選システムが新聞一面で紹介されたこともある。その「ななつ星」の立役者が唐池恒二氏。今、「Newsモーニングサテライト」(テレビ東京系)の「モーサテ唐池塾」で取り上げられた唐池氏のベストセラー『感動経営――世界一の豪華列車「ななつ星」トップが明かす49の心得』が大きな話題となっている。今回は、本書の中で読者からの反響が大きかった箇所を抜粋して紹介する。(初出:2018年9月16日)

【モーサテ唐池塾で話題沸騰】涙がボロボロあふれて止まらない! 九州新幹線開業直前に自前でつくった幻のテレビCM「祝! 九州」をノンストップ一挙公開!【書籍オンライン編集部セレクション】

テレビCMを自前でつくろうと呼びかけた

 2011年3月12日。
 九州新幹線鹿児島ルートは、いよいよ開業を迎えることとなった。

 国鉄時代の1973年に整備新幹線として国の法律により計画決定されて以来、じつに38年の時を経て、満を持しての全線開業となった。

 先立って2004年に部分開業していた新八代(しんやつしろ)(熊本)~鹿児島中央間へつながるかたちで、博多~新八代間が開通。これにより、博多~鹿児島中央間は、最速1時間19分で結ばれることになった。

 沿線住民の皆さん、国鉄時代からこの事業にかかわってきた先輩社員、OB・OGから大きな喜びの声が寄せられていた。

 鉄道事業部営業部長として部分開業にかかわり、全線開業の節目を社長として迎えた私としては、喜びの声に応えないわけにはいかない。

 トップの仕事は機を見逃さず、決断することだ。

 そこで、わが社らしい手づくり感とぬくもりにあふれたテレビCMを企画することにした。

涙がボロボロあふれて止まらない

 開業までおよそ2ヵ月というタイミングを迎え、実際のルートで試験運転がほぼ毎日、平均して2~3往復ほど行われていた。
(CM撮影は、ここしかない!)

 開業のちょうど20日前に当たる2月20日、試験運転の一本を使って、CM撮影を行うことを決定し、博多駅~鹿児島中央駅間の沿線を中心に出演者の募集告知を打つことにした。

 対象は、この全線開業を共に祝っていただける方々約1万人。
 内容は、2月20日に試験運転で走る新幹線に向かって思い思いの衣装、スタイル、横断幕その他諸々で、新幹線に手を振って声援を送ってください、というもの。

 イメージは、人気映画『スラムドッグ$ミリオネア』のラストシーンにあるようなインド映画風のダンス。

 当日は、新幹線車内にスタンバイしたムービーカメラ7台、スチールカメラ6台を中心に、空からも地上からも合計約50台のカメラがその模様を撮影することになっていた。

 Webで事前の参加登録を受け付けていたが、応募状況はまずまず。
 あとは当日を待つばかりとなった。

 2月20日当日、試験運転の新幹線が鹿児島中央駅を走り出すと、そこから先はもうずっと信じられない光景が続いていた。

 沿線の道や広場、川原にグラウンド、学校の校舎やマンションなど、いたるところであふれんばかりのひとびとが、思い思いの格好と小道具でちぎれんばかりに手を振ってくれている。

 先生たちと“結託”したのか、学生服や部活動のユニフォーム姿の学生たちも目立つ。
 チアリーダーチームもいれば、線路から見えるところでプロレスをしている人たち、新郎新婦の結婚衣装、プールに花や風船を浮かべてあったり、マンションに大きな垂れ幕なんて演出もあった。

 面白おかしいものばっかりだったから、新幹線の中でみんなで笑い転げていたが、なぜだかみんなが泣いていた。

 このCMのいいだしっぺだった私も、涙がボロボロあふれて止まらない。
 カメラマンチームもレンズを見つめて、粛々と仕事をしながら、全員ボロボロ泣いていた。
 次々と移りゆく景色のなかで、沿線のひとたちがいろんな姿で現れては通りすぎてゆく。

 結局、私たちは完全に見誤っていた。
 1万人も募集してみて、何千人くらいのひとたちがうまくカメラに収まってくれるだろうか、そんなことを思っていた。

 ふたを開けてみれば、事前登録者数をはるかに上回る、募集した1万人の倍の2万人が集まっていたという。

 新幹線の撮影があるからと、急遽(きゅうきょ)かけつけ、驚くようなコスプレや演出で「出演」をはたした猛者たちも大勢いたようだ。

 飾りもなく、台本もないCM。それが功を奏した。
 インド風ダンスが云々、といった事前のイメージのすべて上を行く、ものすごいCMができた。

 現在でもネット上の動画サイトで、「祝!九州」などで検索すると出てくるので、まだ観ていない方はぜひご覧いただきたい。

 大急ぎで編集、制作されたこのCMは、2011年3月9日にスタートし、そして11日の夕方まで放送された。

 詳しいエピソードと裏話は拙著『感動経営』に余すところなく書いたのでぜひお読みください。