これを受けた日本相撲協会は10月1日に臨時理事会を開き、貴乃花親方の退職と所属力士の移籍を承認した。だが、貴乃花親方が引退の決断をするきっかけになった圧力については否定している。

一時代を築いた功労者
大相撲改革者としての横顔も

 今後はこの「圧力」があったかどうかや角界の体質とともに検証されていくだろうが、貴乃花親方をそんなにあっさり辞めさせていいのだろうか。今は反乱分子かもしれないが、現役時代は一時代を築いた名横綱だ。2001年の5月場所で右ヒザ半月板を損傷する大ケガを負いながら横綱武蔵丸との優勝決定戦に勝った一番など数々の記憶に残る名勝負を見せ、人々を感動させた。また、功績顕著ということで一代年寄になった横綱は大鵬、北の湖、千代の富士、貴乃花の4人しかいない(千代の富士は辞退)。そんな功労者に対して、この対応は納得できない。

 親方としても大相撲には必要な存在だ。審判として姿を見せると、場内には力士以上の歓声が上がる。今でもオーラがあり、人気抜群なのだ。そして現役時代の相撲を見て、あるいは相撲を真摯に追究する姿勢に憧れて、力士を志す少年もいる。そんなスター性や求心力を持つ人物が大相撲からいなくなるのは、あまりにも惜しい。

 また、貴乃花親方は大相撲の将来を考えた改革者でもあった。タニマチという古い形の後援者に支えられるのではなく、Jリーグに見られるようなサポーター制、ファンクラブ制を模索。キッズクラブという少年を相撲に親しませる組織も作った。弟子の小結貴景勝はこのキッズクラブ出身だ。大相撲の伝統を重んじる親方衆には、こうした貴乃花親方の新たな取り組みや改革志向が癇に障るのだろうが、大相撲人気を継続させるためにも、貴乃花親方のような人材は欠かせないはずだ。

力士として一人前の「関取」
47すべての部屋にいるわけではない

 そして貴乃花親方は弟子の育成でも手腕を発揮しているといえる。

 大相撲には約650人の力士がいる。その最上位が幕内で定員が42人、この下が十両で定員28人。この十両以上の70人が関取で、以下幕下、三段目、序二段、序ノ口、前相撲に約580人がいる。

 力士として一人前といわれるのが関取になることだ。月給が支給されるようになるし、場所ごとの報奨金や引退時の退職金も増額される。本場所では大銀杏を結い、化粧廻しをして土俵入りも行う。四股名の下に「〇〇関」と関をつけて呼ばれるようになり、付け人がついて身のまわりの世話をしてもらえる。報酬面でも待遇面でも、十両以上の関取はまったく違うのだ。

 力士たちは誰もが、この関取になることを目指して厳しい稽古を積むし、親方も関取をつくろうと指導に熱をいれる。この力士たちはすべて現在47ある部屋に所属している。

 関取が70人で47部屋なら、各部屋に1人ずつくらいは関取がいそうに思えるが、実はそうではない。9月場所の番付で見ると、関取がいる部屋は30。17の部屋は関取がゼロなのだ。