死亡診断書死亡診断書

 死亡診断書の死因欄にはアイウエの4つの枠がある。(ア)には「直接死因」を、(イ)には「アの原因」を、(ウ)には「イの原因」を、(エ)には「ウの原因」をそれぞれ記入する(写真1)。例えば、ア欄に「急性呼吸不全」と書き、その原因としてイ欄に「脳梗塞」と書く。

 さらに、脳梗塞の原因があればウ欄に記入するが、なければ空欄のままでいい。「死亡診断書マニュアル」では、死亡統計を作成する際には、「最下欄の病名を死因とする」とある。直接的な死をもたらしたそもそもの原因を死因とするという判断は納得がいく。

 ところが、である。最下欄に老衰と記入されている場合は、「修正ルール」という例外が適用されて、その上の欄の病名を死因とすることになっている。驚くべきことだ。これでは、死因としての老衰の集計数が減ってしまう。唯一、老衰が死因として認められるのは、ア欄に「老衰」と書かれ、イ欄以下が空白の場合だけである。

 老衰の場合は最下欄が集計されないという事実について、訪問診療を手掛ける在宅療養支援診療所からは「えっ、知らなかった」という声が聞かれる。「修正ルール」は同マニュアルには書かれていないからだ。

 さらに不思議なのは、同マニュアルに「老衰から他の病態を併発した場合は、医学的因果関係に従って記入する」とただし書きがあり、老衰の他の病名を書くようにわざわざ指導している。その事例として、ア欄に「誤嚥(ごえん)性肺炎」、イ欄に「老衰」とある。

 つまり、医師が永遠の眠りについた高齢者を目の前にして死亡診断書を書く際に、「大局的に見れば加齢による老衰死だろう。だが、老衰で飲み込む力が衰えたことによる誤嚥性肺炎が直接的な死因ともいえる」と考え込んで、死亡診断書のア欄に「誤嚥性肺炎」と書き、イ欄に「老衰」と丁寧に書き込むと、死因統計では老衰ではなくなってしまう。

 睡眠中に唾などが気道に混入する誤嚥性肺炎は高齢者の死因としてかなり多い。2017年には第7位にランクされ、第5位の肺炎の中にも相当に誤嚥性肺炎が含まれていそうだ。「嚥下性肺炎であっても、肺炎と書いてしまう医師は多いのでは」という声が聞かれる。そんな誤嚥性肺炎を事例として強調している。現場の医師はこのただし書きに誘導されかねない。なかなか巧妙な書きっぷりだ。その結果として、老衰が死亡統計から消えていく。